プチ小説「こんにちは、N先生 122」
私は和菓子が好きで、京都の老舗の和菓子もよく食べます。特に京観世は大好きで、社会人になって初めて給料をもらった時に家に買って帰って両親と一緒に食べたような気がします(そうじゃないかもしれません)。その頃から2、3年に一度は京観世を購入して両親と食べていましたが、ちょうど10年前に父親が腎臓がんで亡くなり、高槻市内の2つのデパートで売られなくなると購入しなくなりました。それでも本日は父親の命日なので久しぶりに京観世を購入して、お供えをした後母親と食べようと大丸京都店に向いました。四条烏丸のバス停で下車して大丸方面に歩いていると後ろから、君は『アリ・ババと四十人の盗賊の物語』を読み終えたようだが面白かったかいと声が掛りました。
「ああ、N先生、先生も大丸に和菓子を買いに来られたのですか」
「いや、ぼくはむしろケーキの方が好きだな。今はアップルパイが美味しい季節だよ」
私は春がアップルパイの旬の季節なのかよくわからないので、アップルパイも美味しいですねとだけ言いました。
「君はイチゴタルトの方が旬だと言いたいのだろうが、ぼくはりんごの方が好きだからね。夏は夏みかん、秋は栗、冬は有田みかんが旬なんだろうけど、ぼくはバラエティ豊富なりんごが好きだなあ」
N先生は何時間でも冷凍みかんやモンブランなどのスイーツの話をしそうなので、私は急いで『アリ・ババと四十人の盗賊の物語』の感想を話すことにしました。
「「シンドバードの冒険」「アラジンの魔法のランプ」「アリ・ババと四十人の盗賊」の3つがアラビアンナイトの中の有名な物語ですが、「シンドバード」と「アラジン」は主人公が最初から最後まで活躍しますが、『アリ・ババと四十人の盗賊の物語』はこの前に先生に感想をお話しした『ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語』と同様に魔法の絨毯の所有者となったアリやヌレンナハール姫がずっと物語の主役ではありません。アリは長男ですが、矢を遠く飛ばす競技に敗れてヌレンナハール姫は次男のハサンと結婚し自身は僻地で聖職に就きます。そうして物語の後半は三男フサインの妻となった美しい魔女が主役になります。フサインを愛する美しい魔女は王が大臣らと共謀して夫に危害を加えると思い、夫の父親である王を懲らしめその結果ハサンから王位継承権が移りフサインが王となって物語が終わります。『アリ・ババと四十人の盗賊の物語』も山賊の頭が「胡麻よ、開け!」と呼ばわるのをアリ・ババが真似をしてディナール金貨や宝石の財宝を手に入れますが、後半のところはアリ・ババと彼の妻が幼い時に引き取って大切に育てたマルジャーナが主役になります」
「マルジャーナの活躍を話す前にアリ・ババの兄カシムが呼ばわる言葉を忘れてしまって山賊たちに酷い目に遭わされるところを言わなくちゃ駄目だよ」
「残酷なところなのでちょっと曖昧にして言おうと思ったのですが・・・弟のアリ・ババから「胡麻よ、開け!」で山賊たちが隠している財宝を手に入れられると思ったカシムはさっそく「胡麻よ、開け!」と魔法の呪文を言い洞窟の中に入りました。しかし彼は財宝のことをあれこれ考えていて呪文を忘れてしまい、洞窟から出られなくなったのでした。「大麦よ、開け!」「燕麦よ、開け!」「蚕豆よ、開け!」と言ってみましたが、ダメでした。このあたりまではどちらかと言うとユーモラスな話の展開ですが、山賊たちが帰って来るとこの後からはアリ・ババチーム(と言っても知力を尽くしてアリ・ババを守ったのはマルジャーナですが)と山賊チームの知恵比べとなります。その悲劇の始まりはカシムが見つかり五体バラバラ(実際は六つですが)にされるところから始まりました。洞窟でそれを見つけたアリ・ババは2つの袋に分けて家に持ち帰りますが、このままでは葬儀もできないと悩んでいるとマルジャーナが良い知恵を出してくれて普通の葬儀をします」
「それで山賊たちが諦めたわけではないんだろう」
「カシムの死体を持ち帰ったものがいるので財宝を盗んだものが他にいると確信した山賊の頭は部下に調査させます。そうして部下は靴屋に遺体を縫い合わせるように頼んだのはアリ・ババだということを知りますが、アリ・ババの家に書いたしるしをマルジャーナに2度消され、山賊の頭の怒りを買った部下2人は首をはねられます」
「何もそこまでしなくてもと思うが、頭の怒りが大きかったんだろうね」
「そうして頭自身が調査してアリ・ババを探し当てますが、いきなりアリ・ババを襲うのではなく、油商人の格好をしてアリ・ババの家に泊めてもらい機会を待ちます。部下たちはみな壺の中に隠しました。でもマルジャーナの機転で残りの37人の山賊も壺の中で大やけどを負わされて殺されます。そうして最後に残った頭もマルジャーナに夕食の際に・・・山賊の頭はハッグ・フサインを名乗って隣家に住むようになりましたが、そのことに気付いたマルジャーナは本職の舞姫の格好をしていろんな踊りを踊った後に短剣を山賊の頭の心臓に深く突き刺します」
「客として招いた人が自分の可愛い娘に殺されるのを見てアリ・ババはなんと思ったことだろう」
「アリ・ババと彼の息子はマジャーナが狂気に襲われたものと見て武器を取り上げようとしましたが、マジャーナがハッグ・フサインの外套を剥ぐと山賊の頭の姿が現れました」
「そうしてマジャーナはアリ・ババの息子と結婚して物語は終わるわけだが、この物語、いくつか日本の童話に似ているところがあることに気付くだろう」
「ええ、先生のおっしゃる通りです。苦労せずに大金をもうける上手い話はどこの国でも受けますが、その後の苦難が確実にあるのでそこをどう切り抜けるか。アリ・ババはマルジャーナに助けてもらったのでうまく逃れました。でもそうでないとカシムのように逃れる道のない破滅が待っているということになります」
「きびしい話だがそうなってしまうね」
