プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 107」
福居は高校を卒業してから数回京都市立美術館(現京都市京セラ美術館)に行ったことがある。特に記憶に残っているのが、1979年に開催された印象派の画家ルノワールの展覧会で、他の美術館で開催された、モネやダリやエッシャーの展覧会と共に記憶に残っている。福居がルノワールの展覧会を見たのは浪人時代の20才の頃だったが、その頃は高校時代にクラブで楽しんだ写真を自分の職業に出来ないかと思い4月から半年ほど写真の専門学校に通ったが、授業料が捻出できず行かれなくなり、親には専門学校に行くと言って家を出てあちこち徘徊して夕方に帰って来るという日々を過ごしていた。福居は中学の時に音楽の授業が好きでなくなって高校の時には選択科目で音楽を選ばず美術を選択したが、絵の具のシンナーのような匂いに拒絶反応を起こしてその絵の具で絵を描くことがなかった。ルノワールの絵を見て福居が思ったことは、絵画は写真と違って画面の中から必要でないものを省くことができるということ。例えば町中で写真を撮ると電柱や看板などの目障りなものが入るが、絵画はそれを省いて自分が描きたいものだけを描けるということだった。ただ残念ながら芸術的な絵画にするほどの技量を福居は持っていなかった。1年間大手予備校に通ったおかげで福居は大学に入ることが出来て大学を卒業してからサラリーマンになったが、30代後半になって出世は難しいと思った時に自分の別の可能性を探ってみたくなった。それで再び写真を撮りたいと思ったが、その時は資金があったのでまず良い道具を揃えようと思った。最初はライカのM6ボディとズミクロン35を購入して、後に沈胴式のエルマー50(赤エルマー)と望遠レンズのエルマー90と超広角レンズのエルマリート21を購入した。そうして被写体としては目障りなものがない、京都の寺社、山の景色などを中心に撮影することにした。またマクロレンズでの撮影も目障りなものが入らないのでK&Fのアダプターでズイコーレンズ(オリンパス)とM9を繋いで京都府立植物園で花の写真を撮影していた。そんな福居だったが、写真の専門学校に行っていた当時から講義(ほとんどが実習だったが)で説明された、土門拳、東松照明、森山大道について少し興味があった。少しだったのは自分の写真は素人の趣味でしかないと考えているからだが、彼らの写真に対する姿勢、技法についてはたくさん学ぶものがあると考えた。それで今京セラ美術館で開催されている森山大道の展覧会に行くことにしたのだが、立命館大学前発の12番のバスを三条京阪で下車して平安神宮の方へ歩いていると後ろからM29800星雲からやって来た宇宙人の声がした。
「ワシモキョウトノオテラノシャシンヲトリタイトオモットルンヤケド、ドコガエエヤロカ」
M29800星雲からやって来た宇宙人は胸にM10をぶら下げていた。
「ああ、谷さん、谷さんもライカ・ファンなんですか」
「ソウナノヨ。ヤッパリ、コンパクトデツカイヤスイカラネ。サツエイシタシャシンノイロアイモエエシ。ナニヨリミタメガエエカラテニトッテサツエイシニイキタクナルノヨ」
「そうですね、ぼくも近場で何か写したいものがあるとライカで撮影したくなります」
「デモアンタミタイニほーむぺーじニノセルコトハデキナイシ、ジブンデタノシムシカナイノヨ」
「谷さんも今から森山大道さんの展覧会に行かれるのですか」
「ウン、ワシタマタマカレノ odasaku トイウシャシンシュウヲミテワシモコンナントレタラシャシンヲトルノガタノシクナルヤロナトオモウタノヨ。ソレデソノシャシンシュウノテンジモシテルカナトオモウテネ」
「古書で買えないのですか、アマゾンとか日本の古本屋で買えないですか」
「イチマンエンイジョウシタリ、シナギレヤッタリデアカンノヨ。ワシハサンゼンエンクライデカエンカナトオモットルンヤケドアマイヤロカ」
「ところでどこのお寺がいいかということですが、建物を撮影するよりもその寺に自生している植物や苔などを撮るのが面白いかもしれません。色合いが独特なのでライカで撮るとその色合いが再現出来て楽しいかもしれません。写真撮影にはいろいろな楽しみ方がありますが、私は被写体の独特な色合いを見るのも好きなので、西芳寺さんで撮影するのが楽しいと思います。この前、霊艦寺でたくさん椿の写真を撮りましたが、大阪桜ノ宮の造幣局の通り抜けで見られるような桜が京都のお寺で見られたら、そこに行きたくなると思うのです。でもそういった情報は今のところ得られていません。嵐山や円山公園で桜の撮影をするのもいいのですが、京都のお寺で桜のマクロレンズ撮影ができれば楽しいだろうなとぼくは思っています」
「ワシモK&Fノアダプタートソレニツナゲラレルズイコーノマクロレンズヲカットクワ」
「そうすれば撮影が楽しくなると思いますよ」