プチ小説「こんにちは、N先生 125」

「それじゃあ、『金剛王子の華麗な物語』の先を続けてくれるかな」
「わかりました。修道僧がワーカークに行く道を教えてくれたのですが、3つの道のうちの右を選べと言われたので、金剛王子はその道を行きました。修道僧が教えてくれた道を行くとやがて光塔の下に着きました。光塔には大理石板がはめこんであり、「・・・中央の道をとらば、まことに恐るべきものあらん」と読めました。金剛王子はその後は躊躇なく中央の道を進みました。やがて庭に行き着き庭の番をする黒人の大男がいましたが、大鼾をかいて寝ていたので王子は跨いで庭に入りました。すると「ことわりもなくこの庭に入って来たのは誰か」と魔術師のラティファが尋ねました。金剛王子から経緯を聞いたラティファは王子を気に入りましたが、王子は自分は「松毬と糸杉との関係はいかん」を解かないうちは快楽と幸福は禁じられていると説明しました。王子の態度はラティファの怒りを買い、鹿にされてしまいます」
「長い間鹿のままだったのかな」
「いいえ、幸運なことに庭をさまよっていてラティファの異母妹のガミラと出会い、親切なガミラは魔法を解いて元の姿に戻しただけでなく、王子の願いを聞き入れてワーカークに行くために必要なことを王子に提供します」
「提供って何をかな」
「途中大きな困難に直面することが考えられるので、3つの品を与えました。弓矢、「スライマーンの蠍」という名の剣、霊験が刃にひそむ短刀です。それからワーカークに行くためには叔父のアル・シムーグルの助けが必要と言います。その後、ガミラの指示通りに弓矢や剣の力を借りてターク・タークの宮殿での闘いに勝ち、ターク・ターク王に拘束されていた羚羊に似た乙女アジザ姫を救い出します。金剛王子はアジザ姫に王座に着くよう勧め、アム・シムーグルの居場所を尋ねます。アジザ姫は最初は金剛王子と別れることを悲しみましたが、すぐにアル・シムーグルがいるところに案内しました。金剛王子が短刀の霊験の力を借りてアム・シムーグルの攻撃を躱したため、アム・シムーグルは金剛王子を信用するようになりワーカークに行きたいという王子の願いも聞き入れました。そうしてマッハの速さで飛ぶ変形の気球のようなアル・シムーグルに乗って七つの大洋を渡ってワーカークの町に着きました」
「ワーカークではどんなことがあったのかな。「松毬と糸杉との関係」の謎が解けたのかな」
「その前にアム・シムーグルが金剛王子を下ろしてくれた露台の場面から説明しましょう。露台を降りていくとファラーというワーカークの町の長の寵臣が歓迎の言葉を言って迎えてくれました。二人は言葉を交わしてお互いを確認し、両人は互いに友情を誓い合いました。そうして金剛王子はファラーに問い掛けました。「松毬と糸杉との間にどう言う関係があるのか、そのことだけを知りたい」と。ファラーは顔を黄色くして眼差しが曇りましたが、「糸杉」というのは国王のこと、「松毬」というのは女王のことだが、「糸杉」や「松毬」の名前を出すものはすべて殺してしまえと国王が言っている。それ以外のことは自分は知らない。あなたは魅力のある人だから、私が王に紹介すれば、王が王しか知らないことを説明してくれるかもしれないと言いました」
「王は最初赤い真珠を進物としてもらったこともあり金剛王子に対して満足顔で接していたが、「松毬」と「糸杉」の話になると顔を豹変させただろう。金剛王子はカームース王の娘モホラ姫の象牙の寝台の下の黒人の役割はどういうものかということも問うたんだろ」
「そうです、そうしてどちらも触れてはならないことでした。王は進物に満足して何でも尋ねてよいと言っていたので、首をはねるわけに行かず、ただ炎のように怒りを爆発させるだけでした」
「そんなふうにいろいろあったけれど、王はついにこの物語の核心部分を話し始めたんだったね」
「そうです、あまり長く説明しても退屈なので少し端折ります」
「糸杉が助けてやった2人の老婆の視力を回復させるために白い牝牛のフンを2人の目に塗りつけるところとかかな」
「そういうふうに老婆たちの面倒を見てやったので、糸杉は第1階級の魔人の娘松毬を紹介してもらいました。糸杉は1ヶ月の間松毬と楽しい日々を過ごしましたが、娘の容貌が変わっていることに父親が気付き母親が娘を調べました。娘の不義を知った両親は糸杉を捕まえて処刑しようとしましたが、2人の老婆がスライマーンの霊油で守りました。火あぶりにしたはずの糸杉が笑みを浮かべて灰の中から無傷で現れたので、魔人夫婦は糸杉が卓越した人物と思って自分たちの娘と目合わすのが至当と考えました。そうして二人は幸せに暮らしました、めでたしめでたしで終わっていれば良かったのですが、松毬が今度は糸杉に不義を働いてしまいました。糸杉が寝ている間に馬を飛ばして7人の水牛のような黒人たちと・・・」
「そこはあまり詳しくなくてもわかるだろう。それを目の前にして糸杉はどうしたのかな」
「5人を地獄行きにしましたが、1人は逃れた後に首を切られて見せしめの塩漬けにされ、1人は首尾よく逃れ去りカームース王の娘モホラ姫の象牙の寝台の下に潜むことに成功します。松毬は両手足を縛られ塩漬けにされた首を近くに置かれる罰を受けます。金剛王子は死を覚悟で、どういう理由で残った黒人がモホラ姫の寝台の下にいるのか、またモホラ姫がなぜそのことを承知したのか教えてほしいと糸杉に頼んだが、糸杉はそれは国家機密だからいえない。知りたいのなら、あんたが自分で尋ねなはれと言われます」
「そうして万全の準備が出来た金剛王子はカームース王のところに乗り込み、王に調べたすべてのことを伝えます。松毬と糸杉の関係を聞いた王は金剛王子の味方となり、隠しごとを明らかにしないモホラ姫を叱責し王子と一緒に王女の象牙の寝台を持ち上げました。黒人が現れて、娘と黒人の悪行が明らかになり、王は黒人を串刺し刑に処し娘の処分を金剛王子に一任しました」
「で、王子はモホラ姫をどうしたのかな」
「金剛王子は謎解きを進めるためにたくさんの女性の手を借りました。珊瑚の枝、ラティファ、ガミラ、アジザ姫。ラティファは別として3人の女性の助力がなければ謎解きは出来なかったでしょう。金剛王子はたくさんの人から有益なほのめかしを与えられて自分の意思を決定することができました。モホラ姫の処遇もまず父親に相談しました。シャムス・シャー王が「労苦困難の末に獲た者は大切にしなくてはならぬ。庭園に潜り入った時は深甚な敬意を払ってお前を遇した。この女性の灌木の果実、林檎の風味、落花生の風味は誰も味わったことがないことはお前も知っているだろう」と言い、4人の正妻も支持したので、金剛王子はこの女とも相結ばれました。黒人がそそのかしたとはいえ、幾千人もの人の命を奪った女性ですが、立派な子供をもうけ、その子らの歩みは一歩一歩が至福でありましたと結ばれています」
「君は多くの王子の首をはねるよう命じたモホラ姫が罪に問われず幸せに暮らしたというのが許せないのだろう。でも、モホラ姫が罰せられたというのでは物語がおこげごはんのようなすっきりしないものになる。いろいろあったが、本人も反省しているし罰則もあったから許してもいいのではというわけだ。もしモホラ姫が浮かばれないようなことになると、せっかくクォーターバックが試合の大詰めのところでいい超ロングパスを投げたのにディフェンスの網にかかってインコンプリートになったみたいになる。つっこみを入れたいところだが、そこは少しだけ我慢して物語を楽しませてくれた登場人物に感謝するだけというのがいい」
「そうですね、物語なんですから、目くじら立てる方がおかしいですよね」