プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 115」
福居は2年半かかってようやく『千一夜物語』を読み終えたが、次に何を読むか迷っていた。ディケンズの14の長編小説を再読することも考えたが、それよりもディケンズの長編小説の新訳か始めて読む西洋文学の長編小説が読みたかった。ホメロスの英雄叙事詩『イーリアス』と『オデュッセイア』を読んだ後でギリシア史のトゥキュディデス著『戦史』、クセノポン『ギリシア史』を読み、今はヘロドトスの『歴史』を読んでいるが、やはりヨーロッパの長編小説を読みたいと思った。今まで読んだ長編小説で一番面白かったのはアレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』だったので、同じデュマの『ダルタニャン物語』を再読するのもいいと思った。
<そうだ、フランス文学ではユゴーがいて、『レ・ミゼラブル』は名作だ。でもディケンズ・フェロウシップの春季総会で取り上げられた『九十三年』はフランス革命の頃が舞台のあまり面白い小説ではなかった。フランス文学はギロチンや残酷なシーンが多いからすんなり読めない。デュマの『王妃マルゴ』は残酷の極地のような小説だ。『赤い館の騎士』も最後が悲惨だし、ゾラの『ジェルミナール』も残酷なシーンが出て来る。ディケンズやモームの小説はそういうシーンがないので安心して読める。ドイツ文学もそうだけど、ゲーテは理解できない『ウィリアム・マイステルの修業時代』『ウィリアム・マイステルの遍歴時代』『ファウスト』を読んだがよくわからなかった。むしろヘッセの『知と愛』『ガラス玉演戯』、ケラーの『緑のハインリッヒ』の方が楽しんで読んだ。あと残っているとすれば、スペインのセルバンテスの『ドン・キホーテ』があるが、大学生の頃にこの小説を少し読んだ記憶がある。騎士道物語を読みすぎて頭がぱさぱさになった老齢のドン・キホーテがサンチョ・パンサと共に珍道中を繰り広げ、ドルシネアという女性に恋い焦がれたりする。会田由氏の訳を読んだと思う。もう一つはダンテの『神曲』だが、小説ではないし全訳があるのかどうかわからなかった。おそらくあらすじのようなものだろう。大学図書館で『ドン・キホーテ』を少し読んでみて、読めそうだったら読んでみようかな>
福居がそんなことを考えながら、堀川通を歩いているとM29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「アンタ、キョウ、クラリネットノハッピョウカイガアッタンヤロ。ウマイコトイッタカ」
「ええ、谷さん、何とか最後まで吹けて、先生から、良かったと言われたのですが、異音だらけで、最後のところでピアノ伴奏と合わなかったので70点くらいの出来だったでしょうか。でもピアノ伴奏と合わせるのが難しい曲を最後まで演奏できたので満足しています」
「ソレカラアンタハセンイチヤモノガタリヲヨミオエタンヤロ」
「ディケンズも愛読していたと言われるこの中東の長編小説を前から読みたかったのですが、ようやく最後まで読むことができました」
「ドノハナシガオモシロカッタノン。アラジン、アリババ、シンドバード・・・」
「特にその3つは幼い頃に話を読んだか、聞いたかしたので、興味深く読みました。大まかな話は同じだなと思いました」
「デモシンドバードハナナツノウミノボウケンガショウサイニカカレテイルシ、アラジンガドノヨウニシテマホウノランプヲテニイレタカカイテアル。アリババハジブンデコロサレタアニノカタキヲウッタンデハナクテ、ヨウジョガガンバッテクレタコトガカカレテアル。コウイウトコロハヨマントワカランカラネ。トコロデリムスキー=コルサコフノ「シェエラザード」ハセンイチヤモノガタリニデテクルカタリベノダイジンノムスメヤケド、キョクノナイヨウハドンナンナノ」
「リムスキー=コルサコフが作曲した交響組曲「シェエラザード」は4楽章それぞれに曲の元となった物語が解説してありますが、その物語ではないかという程度で、主題の元とは説明していません。第1楽章はシンドバードのテーマ、第3楽章は新月王子と満月王女の恋物語ではないかとの解説がありますが、断定はしていません。なので私は、『千一夜物語』の中から曲のイメージにぴったりの場面を当てはめてしまうのではなく、『千一夜物語』の中のいろんなストーリーを思い浮かべながらこの華やかな管弦楽曲を聞くだけで十分だと思います」
「ワシモソウオモッテテテン。アンマリムズカシイコトヲカンガエント、コノカレイデエキゾチックナキョクヲキイタラエエンヤネ」
「そうです、仰る通りだと思います」