プチ小説「長い長い夜 39」
十郎と山北は学校からの帰り道、話したいことがたくさんあると帰り道の途中にある駅舎に入り待合室で話をする。その日も指揮者アンセルメの話題で盛り上がり二人は駅舎の待ち合いで話をすることにした。
「山根君はアンセルメのアルバムベストスリーは何だと思う」
「やっぱり一番人気のあるリムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」それからファリャのバレエ音楽「三角帽子」それからフランス音楽のエッセンスが聞けるラヴェルのボレロとラ・ヴァルス、オネゲルのパシフィック231、デュカスの「魔法使いの弟子」が入っているアルバムかなぁ」
「そうだねぇ。3つ選ぶとしたら、それでいいけど他には・・・」
「どちらかと言えばぼくは室内楽曲や独奏曲が好きだから、アンセルメの名盤をたくさん知っているわけじゃない。ここは山北君から教えてもらうのがいいと思う」
「よし、わかった。ぼくは他にいいなと思ったのは、ストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」、ビゼーの交響曲なんだけど、この二つをを加えてベスト5としたい」
「アンセルメのストラヴィンスキーなら「火の鳥」もいいね・・・」
二人が話していると担任の奥山先生が現れた。
「ああ、奥山先生、今からクラリネットのレッスンに行かれるんですか」
「ええ、そうなの。毎週火曜日の午後7時からなの。まだ電車が来るまで15分程あるから、私も仲間に入れて」
「仲間と言われても、奥山先生はクラシック音楽に詳しいですか」
「私、クラシック音楽はあまり知らないけれど、お二人と話すことには興味があるわ。今は楽典の話をしたいけどどうかしら」
「楽典かあ、ぼくはあまり詳しくないけれど、山北君はどうなの」
「演奏家やレコードのことならいろいろ知っているけれど楽典はそれほど知らないなあ。先生、何かお困りごとがおありなんですか」
「いいえ、今日は前回のレッスンで習ったことをお二人に尋ねてみようというわけ」
「何かなー。答えられるかな」
奥山先生は笑顔で続けた。
「小学校では習わないと思うわ。ハ長調はC Major で基音はド。ではフラットがひとつつくヘ長調はF Majorだけれど、基音は何かしら。山根君はこの答えを知っているから、山北君が答えて」
「えーと、シかなぁ」
「不正解なので、山根君教えてあげて」
「わかりました。シはフラットがつく音で、基音はドレミファソラシドのドにあたる音でヘ長調の場合はファ。これは五度圏がわからないと回答できない」
「五度圏かあ。小学校の音楽では五度圏というのは習っていないなあ」
「じゃあ、シャープがひとつつく調性は何長調で基音は何でしょう」
山北は少し考えていたが、いいことを思いついたぞと呟いて奥山先生を見た。
「五度圏の説明をしてもらえたら、答えられるかもしれないので、先生、お願いできますか」
「わかったわ。五度圏の基本はC(ド)でそこから五度上がるとG(ソ)でシャープが1つつくということ。でフラットの場合は反対周りになるから、五度下がるとF(ファ)でフラットが1つつくということ」
「ということはト長調でG Magorだね。基音はGだからソでシャープはファの時につく」
「ピンポーン」
「でも何でまた、今ぼくたちにそういう質問をされたのですか」
「実は先生、クラリネットの先生から同じ質問をされて赤い顔をして5分間固まってしまったの。それで山根君や山北君が将来そういうことがあっても困らないようにと思ってクイズで尋ねてみたの」
「クイズなら結果を恐れず答えを言ってみることができますからね。レッスン中だと他の生徒さんもいるから緊張して答えられなくなってしまうんでしょうね」
「クラリネットの先生は、ハ長調、ト長調、ヘ長調については基音、1オクターヴの音階、分散和音が尋ねられたらすぐに答えられるようにしておいてくださいと言われたの。あっ、電車が来たようだわ。じゃあ、お二人ともあまりここに長居しないようにして早く帰ってね。ではまた明日」
「先生、お気遣いありがとうございました」
「また教えてください。ありがとうございました」