プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 117」

福居は高校を卒業して以来泳いだことがない。カナヅチに近い。だから山に行くことはあっても夏に海やプールに行くことはない。45才から51才までは槍・穂高方面の登山も敢行したが、43才になって始めた登山も55才以降はほとんどしなくなった。60才を過ぎてからは武奈ヶ岳に登らなくなったし、62才の時に伊吹山を登ったのを最後に登山靴も履いていない。毎日筋トレをしているので山登りは不可能ということはないが、45才の頃のように夏の真っ盛りに武奈ヶ岳や伊吹山に登ることはもうできないだろう。
<山に登れなくても伊吹山に行けると思って、山頂近くの駐車場での星空観測に一昨年参加したが、曇天で観測できなかった。伊吹山の山頂は空気が澄んでいて見晴らしが良いから、天気が良ければ天の川銀河やたくさんの星だけでなく今まで体験しなかったようなことも体験できるかもしれない。そう思ってライカや大型の三脚も持って行ったのだが、2日とも無駄に終わった。昨年は天候が変わりやすくて、茨木弁天花火大会も五山の送り火も写真が撮られなかったくらいだから伊吹山へも行かなかった。でも今年は伊吹山の星空観測会に参加しようかな>
福居がそんなことを考えながら、家を出て晩ごはんを買うために駅前の松屋に向っているとM29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「ナツヤスミドコカイクノン」
「もう67才ですから、夏休みというものはありません。でも避暑に行くというのならありかもしれません」
「ヒショイウテモ、アンタノバアイイチネンジュウカネガナイカラドコカヘデカケテリョウヲトルノハムズカシイノトチャウン」
「谷さんが言われる通りですが、どこかへ出掛けようと思っていれば願いは叶うんじゃないですか。別府温泉の地獄めぐりに行くことは2週間前に決めたことですし、この夏も何かのついでに行けるかもしれません」
「ツイデトイウケド、ライネンノディケンズ・フェロウシップノソウカイハキョウトデカイサイヤロ。ケンショウショウセツデショウヲトッテショウキンデリョコウニイクトイウテモアンタノバアイイチジヨセンニモトオラナイ」
「仰る通りですが、どうしても行きたいと思えばある程度の旅行は何とかなるもんです。郡上八幡や串本には日帰りでしたが、楽しい旅行でした」
「ビガエリデ、チカバヤッタカラネ。ハコダテデヤケイヲトリタイッテイットッタケド、コトシモムリヤロ」
「そうですね、夜景を撮影するのは11月頃がいいのですが、今のところ考えていません」
「ソンナマイニチデタノシイカ」
「楽しいというのは人それぞれだと思います。スポーツ、酒はしませんし、食事もお金を掛けません、私は興味深い本を読んで、クラシック音楽を聞いていればそれだけで楽しいんです」
「ソノカワリ、シュミニタクサンオカネヲツカウヤロ」
「旅行もたまにしかしませんし、本もレコードもあまり購入しません。週に2~4回大学図書館に行けば気分転換できますし・・・母親の介護をしながらこれだけのことができるのですから、不満を言っては罰が当たります」
「デモイマカラ10ネンマエハチガッテイタヤロ」
「いいえ、父親が亡くなったのが今から10年と3ヶ月程前ですが、父親が腎臓癌のステージ4と言われた時(2014年10月)から後は自分のペースで毎日を送ることができなくなりました。そうして2015年の3月には14年間好き勝手な生活をしてきた公団住宅での生活をやめて親の近くに引っ越しました。2週間に1回両親の様子を見に行くだけの生活から両親の面倒をみる生活へと変わったのです。それでも好きなことをやめないのは、それが生活に潤いを与えているからです。読書、音楽鑑賞、クラリネット演奏をしていると辛いことを忘れます。旅行や写真はもちろん楽しいですが、毎日しなくても我慢できます。出来る範囲内で楽しいことをして、旅行や写真は機会があればそれで充分なのです」
「デモオカネトジカンガアッタラ・・・」
「もちろんまずは函館まで出掛けて2泊して函館山から夜景を撮ることでしょう」
「ソウイウトキガキタライイネ」