プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 119」
福居は50才になる少し前からクラリネットのレッスンを受けている。コロナ禍で2年7ヶ月の中断があったが、グループレッスンの後は個人レッスンを続けている。それでも最近は猛暑に耐えられなくなったため、昨年の夏から8月はレッスンを休むことにした。福居は7月最後のレッスンを受けるために駅に向っていた。
<それにしても働いていた頃は真夏のお昼の日差しが嫌だと思うことはなかった。朝、7時前に家を出て、夕方、5時過ぎに帰るとお昼の強い日差しを浴びることがない。でも今日は母親の訪問看護と訪問リハの付き添いをして昼食を食べてから家を出たから、日差しが物凄く強い。大学図書館に行く時は朝7時前に家を出て午後5時過ぎに家に帰るようにしているが、クラリネットのレッスン日は訪問看護なんかの付き添いがあるからそう言うわけに行かない>
腕時計の温度計を見ると38度となっていた。
「アツイノニヨウガンバルネ。ナツハジテンシャガナイトエキマデイクノモタイヘンヤネ」
福居が後ろを見るとM29800星雲からやって来た宇宙人が微笑んでいた。
「ああ、谷さんでしたか。ぼくは駅まで自転車で行くことはないんです。便利ですが、クセになって毎日利用することになるとお金がかかりますから。それにしても先週もお会いしましたが、今日は何か用事があるんですか」
「コンナケアツイト、アンタガイキダオレニナレヘンカトシンパイニナルンヤ。ソヤカラハナシアイテガアラワレタトオモッテクレタラエエノヨ。トコロデキョウハムードミュージックノコトヲハナシテクレヘン。ワシクラシックオンガクヲヘンキョクシタムードミュージックガモノスゴクスキナンヨ」
「いいですよ。レイモン・ルフェーブルの涙のカノンが一番有名だと思いますが、ぼくはレイモン・ルフェーブルで一番好きなのはヴィヴァルディ「四季」冬のラルゴでしょうか。他にモーツァルトの交響曲第40番、ベートーヴェンの第九、ベートーヴェンの月光ソナタ、ロドリーゴのアランフェス協奏曲の編曲もよく聞かれます」
「アンタガスキナポール・モーリアハドウナノ」
「「みじかくも美しく燃え」という曲名がつけられているモーツァルトのピアノ協奏曲第21番第2楽章の編曲がよく聞かれると思うのですが、ポール・モーリアの編曲が有名なのかわかりません。バッハのG線上のアリア、タレガのアルハンブラの思い出、ブラームスの交響曲第3番第3楽章の編曲もありますが、私はショパンのワルツ全曲のオーケストラ編曲が素晴らしいと思います」
「ワシモキキタイカラメモシトコ。ホカニハナイノン」
「ビゼーの真珠採り、これはポール・モーリアのもあったと思います。映画音楽で有名になったのが、トゥ・ラブ・アゲイン(ショパンのノクターン第2番)でこれはカーメン・キャバレロのレコードがありますが、他に彼の名演がないのが残念です」
「クラシックオンガクヘノカケハシミタイナヤクワリガアルカラモットタクサンレコードガアッタラエエノニネ」
「最近は編曲という作業を省いて原曲をそのまま演奏する場合が多いようですが、エッセンスを取り出して短い時間で聞かせるクラシック音楽を編曲したムードミュージックがあったらいいのにと思います。今ではオーケストラの音すべてをキーボードで出力できるようですから、編曲の必要がなくクラシック音楽をそのまま演奏するようになってしまったのかもしれません」
「スウフンノキョクヲエンソウスルタメダケニガクダンヲヨブノハチュウチョスルカラ、クラシックオンガクノコンサートノヨウナカタチニナルンヤロネ。デモココロカラクラシックオンガクヲアイスルオンガクノサイノウガアルヒトガメイキョクヲアレンジシテタノシマセテクレタラクラシックオンガクノスソノガヒロガルントチャウヤロカ」
「でも今は地道に積み重ねて50才くらいで花開くというのをさせてもらえない時代ではないでしょうか。才能が見えたらすぐにテレビに取り上げられて大人気になる。そうなるとファンに披露する時間がかかり地道に音楽を作る時間が無くなる。やがてアルバムを2、3枚出したら人気がなくなりその頃には地道に創作する意欲もなくなっている」
「ソンナコトハナイトオモウケレド、ハナヤカナセカイヲシッテシマウトジミチニヤッテイタコロニモドルノハムズカシイヤロネ。キカイヲアタエルノハエエコトヤケレドネ」
「ぼくは華やかな世界を垣間見ることもなくこのまま終わってしまいそうですが、地道に頑張って行くつもりです」
「ソラソウセントシャアナイントチャウ。デモガンバリナ」