プチ小説「こんにちは、N先生 128」
私はマスターを怒らせた(マスターはリクエスト曲が終わったらすぐにリクエスト席から別の席に移れと言われました)と思い、2022年7月から京都出町柳の柳月堂に行っていませんでした。ずっと行く気がしなかったのですが、9月に開催したLPレコードコンサートで、マスターが亡くなられお客さんが少なくなったので柳月堂がどうなるかとの話が出ました。それでもしかしたら、私が音の良いレコードを持って行けば少しはお客さんが増えてお役に立てるかと思い、アンセルメ指揮のリムスキー=コルサコフ「シェエラザード」とバルビローリのブラームス交響曲第2番(どちらもクラシック音楽を聴き始めてすぐに好きになりオリジナルに近い良い音の出るレコードを持っています)を持ち込んで掛けてもらうことにしました。ただ1日に2枚レコードを掛けてもらえるか確認する必要がありました。それで9月9日の午前10時30分頃(この日たまたま大学図書館が休館日でした)に久しぶりに柳月堂に行きました。4年2ヶ月ぶりでした。柳月堂にはリクエストのためのレコードがたくさんあるので、この日はその中からリクエストをしました。ブラームス交響曲第1番をミュンシュ指揮ボストン交響楽団演奏のレコードをリクエストしましたが、その際に昼食から帰ってもう一度リクエストできるか尋ねました。できると言われたので、百万遍の松屋で辛みそ茄子定食を食べた後に柳月堂に戻り、モーツァルトのピアノ協奏曲第24番をカサドシュのピアノ セル指揮クリーヴランド管弦楽団(1954年盤)をリクエストしたのでした。2枚聞けることが確認できたので、レコードを持ち込んで掛けてもらうことにしました。9月11日午前10時30分頃に京阪出町柳駅に着き私が改札口を出るとなぜかN先生がおられました。私は、まだ『ドン・キホーテ』を読み終えていないのになんでかなと思いました。
「君はいつも柳月堂に行く前に和菓子のふたばに行くんだろう」
「ああ、N先生、ふたばの豆餅と葛餅を食べたいところですが、最近血糖値が高くHba1c値が高いと言われたので糖分を控えることにしました。ホリーズカフェのつぶあんもしばらく控えようと思っています」
私は、N先生が2日前に会ったM29800星雲からやって来た宇宙人と同じことを尋ねるので、知り合いなのかと尋ねようかと思いました。するとそれをすばやく感じ取ったN先生は無難な一般的な話をしました。
「もしかしたら、同じことを尋ねる人がいるかもしれないが、柳月堂に行く人の多くは普通ふたばに寄るんじゃないかな。君のように人がしないことをするのに陶酔する人でも。ところで今日は何をリクエストするんだい」
「アンセルメ指揮のリムスキー=コルサコフ「シェエラザード」とバルビローリのブラームス交響曲第2番でどちらも昔から愛聴して来たレコードです。先生も一緒に聞かれますか」
「ああ、「シェエラザード」は聞きたいね。おまけのボロディンの「ダッタン人の踊り」も好きだからね。ジゼル・マッケンジーが歌う「ストレンジャー・イン・ザ・パラダイス」も好きなんだ」」
「そうですか。ところで私は先生が『ドン・キホーテ』のことをどう思っているかと尋ねるかと・・・」
「あまり良い印象を持っていないようだね」
「まだ、全編第2巻の3分の2くらいしか読んでいないので、最終的な評価はできませんが、ドン・キホーテはかなり変わっているし、首を傾げることしばしばという感じです」
「それはどこらあたりかな」
「牛島信明訳の全編(一)の320ページあたりです。ドン・キホーテは騎士道物語を読みすぎて頭がおかしくなった人ということになっていますが、ここでは十字軍の騎士のようなことをドン・キホーテが言っています」
「その宗教に帰依している人が読んだら怒るだろうね」
「他にも旅館で騒動を起こしたり、一番許せないなと思ったのは聖職者が死者を運んでいるところに突進してそれで得た戦利品?をサンチョ・パンサと仲良く分けるところです。サンチョはドン・キホーテの監視役みたいな役割と思っていたのですが、一緒になって悪いことをするんですから。それに怪我をしてそれによく効くと飲んだ薬が効きすぎて吐いたりお腹がゆるくなったり」
「君は第25章まで読んでいるみたいだから、印象的なシーンが他にあっただろう」
「ええまさに第25章の終わりのところが印象的です。
「ドン・キホーテが応じた。『待つが良いぞ、サンチョ、あっという間にやってのけるからな』
こう言うと、騎士は大急ぎで、ズボンを脱ぎ捨て、下半身をあらわにしてシャツの裾をひらひらさせた。それからなんの躊躇することなく二回高く跳び上がって(以下略)」
とても最後まで掲載できないほど、サンチョもびっくりするほどの狂態です。ここを読んで、果たして最後まで読んだ方がいいんだろうかと思いました。でも、ルシンダとの恋愛に悩むカルデニオが登場すると少し面白くなってきました」
「そうか、そしたら何とか挫けないで最後まで読めそうだね。安心したよ。じゃあ、これから柳月堂でゆっくり音楽を楽しもうか」