プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 126」
福居はよく休館日に大学図書館に来てしまい、その後どうしようかと思うことがある。貧乏学生の頃だったら、三条河原町にあった三省堂で2時間ほど時間を潰して帰宅しただろう。福居は本やレコードやCDを限られた資金で時間を掛けて選ぶのが好きだった。三省堂の他に曽根崎にあった旭屋書店、堂島にあったワルツ堂、アメリカ村にあったタワーレコード、阪急32番街にあったダイガ、阪急東通り商店街にあった名曲堂、四条通にあったジュンク堂などではいつも2時間以上かけて本やレコードを漁っていた。ジュンク堂が大阪に出来てからは、旭屋書店、紀伊國屋書店と合わせて3つの書店を回っていたが、知らないうちに曽根崎の旭屋書店がなくなってしまった時はぽっかり穴が開いてしまった気がした。福居が中学生の頃には今のヒルトンホテルがあるところにも旭屋書店があって、ところどころ木製の床を踏みしめるとギシギシ鳴っていたのを覚えている。そんなことを思い出しながら、59番の京都市バスに乗っていると乾隆校前のバス停でM29800星雲からやって来た宇宙人が乗りこんで来て、福居の隣の席が空いていたのでそこに座った。
「ああ、谷さん、谷さんも柳月堂に行かれるのですか」
「ソウヤネンケド、アンタハキョウナニヲカケテモラウノ」
「残念ながら、今日は持ち込みレコードを持って来ていないので、柳月堂にあるレコードを掛けてもらうつもりです」
「ヤッパリ、ミュンシュトカカナ」
「ええ、前回、ブラームス交響曲第1番が良かったので、サン=サーンス交響曲第3番「オルガン付き」を掛けてもらおうと思っています」
「アンタ、ミュンシュガスキソウヤケドホカニハドンナメイバンガアルノ」
「最晩年のパリ管弦楽団を指揮した、ブラームス交響曲第1番、ベルリオーズ幻想交響曲、ラヴェル管弦楽曲集は評価が高いですし、私も好きです」
「ボストンコウキョウガクダンヲシキシタノハドウヤノン」
「シューベルトの交響曲第9番「ザ・グレイト」、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」、メンデルスゾーンの交響曲第4番はLPレコードコンサートで掛けてもらいました。この3枚は名盤だと思います」
「キョウ、オルガンツキヲリクエストシタラヒカクガデキルネエ」
「そうですね、でも前に聞いた音ってどのくらい覚えているのかな」
「ホカニモリビング・ステレオアンタモッテイルノ」
「他にはベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」を持っていてこれも名演だと思います。今一番欲しいのは、リビング・ステレオ(オリジナル盤)のバッハのブランデンブルク協奏曲全曲ですが、なかなか目にすることがありません」
福居とM29800星雲からやって来た宇宙人は福居のリクエストを聞き終えて店を出た。
「アンタ、コレカラヒャクマンベンノマツヤデブタニクトナスノカラミソイタメテイショクヲタベルンヤロ。ワシモイクワ。ナニクビヲカシゲトルン」
「うーん、今日聞いたレコードの音が今一つで・・・日本盤だからでしょうか。柳月堂の装置はもっといい音が出ると思ったのに。それで思わず、店員の女の子にリビング・ステレオを持って来て聞き比べしたいですと言ってしまいました。私の朧な記憶ではもっとオルガンの音が高らかに鳴り響いて、ピアノの音がもっと際立って聞こえたと思うのですが・・・弦楽合奏のところは素晴らしかったと思います」
「ホタラ、アンタライシュウモココニクルンカ」
「前回来店のレシートを持っていたら、200円割引になります。だから1400円のコーヒーが1200円になりますが・・・やっぱり私のようなしがないものにはきついです。月に1回位にしておいた方がいいと思います」
「ソウイイナガラ、マタライシュウモクルントチャウン。キニナルコトガアッタラ、ハヤイトコロスッキリシトイタホウガエエントチャウ」
「それもそうですね」