プチ小説「たこちゃんの習性」

コレクション、コレクショーン、コレクティオーンというのは蒐集のことだけれど、ぼくの場合一旦火がつくと
止まらなくなってしまうので困ってしまうんだ。思えば、コレクションの始まりは●リコなどの駄菓子のおまけ
ではないかと思う。ものごころついたときに●リコ提供で「遊星少年パピイ」と「遊星仮面」という白黒のアニメを
放送していて、ガムのおまけにそのアニメの名場面のシール(シールは天然色で爪でこすってオブラートのような
ものをへばりつけるタイプのものだった)が付いていて集め出したのが切っ掛けだったように思う。他のおまけで
楽しかったのは外国の切手のおまけだった。その切手が少したまった時に、日本の切手に興味がないかと友人から
話があり、興味を示すとその友人は自転車で30分程掛かる民家に連れて行ってくれた。そこには60代くらいの
おじさんがいて、大きな切手帳をぱたんぱたんと音を立てながらめくって、国立公園、花、魚、浮世絵、日本画などの
図案の切手を見せてくれた。そうしていつも300円程度で4、5枚の切手を購入したものだった。でもある日、
急いでその切手屋さん(ぼくたちはおじさんのことをそう呼んでいた)に向かう途中の下り坂で自転車のブレーキが
効かなくなり、道路からはみ出して1メートルほど下にある民家の勝手口の前に転げ落ちてしまった。そのころぼくは
栄養失調で体重が余りなかったのでかすり傷ひとつ負わなかったが、自転車がひしゃげ、勝手口からおばさんが何と
言うべきか困った顔をして出て来たのをはっきりと覚えている。小学3〜4年の頃だったと思うが、それからしばらくして
英語を習ったり塾に行くようになって徒歩でのんびりと遠くまで切手を買いに行く余裕がなくなったんだ。そう言うわけで
切手収集は資金面でも困難が生じて来たこともあり諦めざるを得なくなったが、中学1年になって短波、中波、長波(FM)が
受信できるラジオを聞き始めるようになると、当時はやっていたベリカード集めをやり始めた。最初はまじめに受信報告を
書いて、北海道、宮城県、東京都、神奈川県、愛知県、広島県、福岡県にある放送局のベリカードや番組表を送ってもらって
いたが、ある時実験的に「オールナイト●●」の受信報告を番組の冒頭で紹介されている放送局に送ったところ半数以上の
放送局がベリカードを送ってくれた。一度にたくさんの放送局のベリカードを手に入れて喜んだのだが、その後じっくり
考えてみるとそれでベリカードを入手できそうな放送局がなくなってしまったことに気が付いた。これは後の教訓にも
なったが、苦労して手に入れると次ぎに繋がるが、逆に楽をするといい加減なやり方をしたことに対する恥ずかしさも
生じるので後が続かなくなるということだった。そう言えば、駅前で客待ちをしているスキンヘッドのタクシー運転手は
何か蒐集しているのだろうか。そこにいるから聞いてみよう。「こんにちは」「オウ、ブエノスディアス メジャーモハナダ
 キエレメムーチョ ベサメムーチョ」「あなたは花田さんというのですか」「ちゃうちゃう、鼻田ちゅー名前なんや」
「それにしても、あなたに熱愛してくれ、いっぱいキスをしてくれと言われても困るのですが...」「ええやないか、
断ってからやるから、だってぼくたちは...」「そうですか、まあそれはこちらにおいといてっと...。鼻田さんは何か趣味
というものはあるのですか。また何か集めていますか」「そうやなー、ギャンブルすべてかな。だから家には生活必需品
以外には嫁はんと子供がおるだけや 。生憎やったなー」そう言うと、別の客を乗っけてどこかに行ってしまった。
ぶつぶつぶつ...。