プチ小説「友人の下宿で26」

「皆さんお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。本日は、「恋人と肩を寄せ合って聞きたい音楽」を
 選んだので、是非お聴きいただきたいと高月さんが言われていますので、皆さんも何かの参考にしていただきたいと
 思います。それでは高月さん張り切ってどうぞ」
「ご紹介いただいたように、今日は「恋人と肩を寄せ合って聞きたい音楽」をお聴きいただきます。これは決してこれを
 聞いたから、「恋人ができて肩を寄せ合うことができるという音楽」ではありませんので、悪しからずご了承下さい」
「そんなら、帰るかな」
「まあ、まあ、押さえて押さえて」
「最初にお聴きいただくのは、ブラームスの弦楽六重奏曲第1番です。フランス映画「恋人たち」のテーマ曲として使われた
 曲で、私は残念ながら未見ですが、かなり濃厚なラブシーンが連続する映画のようです。第2楽章はそういった感じが
 あるのですが、他の楽章は牧歌的な田舎の道をのんびり歩いているような感じですので、安心してお聴き下さい」

「次にお聴きいただくのは、シューマンの交響曲第1番「春」です。私はシューマンのファンでありますが、彼の特長を
 ひとつ上げるとすれば、これはあくまでも私の主観に過ぎないのですが、「濃厚さ」だと思うのです。これ以外の曲では
 ピアノ協奏曲。ヴァイオリン協奏曲、交響曲第3番「ライン」、同第4番などもとっても濃い(恋)音楽と思うのですが、
 皆さんはどうお感じでしょうか」

「次は、メンデルスゾーンの劇音楽「真夏の夜の夢」です。この曲は、シェークスピアの劇「真夏の夜の夢」の付随音楽
 ですが、序曲や結婚行進曲は有名でそれだけが演奏されることはしばしばです。また結婚行進曲は結婚式での定番の曲で
 しばしば耳にします。私も早くそうなりターイ」
「.......」
「早くそうなりターイ」
「続けて下さい」
「そんなわけで、メンデルスゾーンの魅力一杯のこの曲をお聴き下さい」

「最後はシューベルトの歌曲を2曲お聴きいただきます。その生涯ずっと恋愛に対して強いあこがれを感じていながら果たせずに
 さみしくこの世を去ったシューベルトのことを考えると、自分はまだ少しは可能性が残っているのだから強く生きようと
 思います。そんな強い女性へのあこがれが表現された彼の音楽を聞くと私の場合、身につまされます。みなさんはどのように
 感じられるでしょうか。「春の想い」と「君はわが憩い」をお聴き下さい」

「百田、どうだった」
「早くそうなりターイは同感だけれど、シューベルトのような人生は...」
「どう思う」
「人に多くの遺産を残したけれど、本人は少しも楽しくなかったかもしれないね」