プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生70」
アユミとその夫は翌月には小川が住むアパートに引っ越して来たが、その日のうちに家族4人で
夫妻を訪ねた。アユミの夫は玄関でヒンズースクワットをしていた。
「やあ、みなさん元気にしているね。ぼくは時間がある時はこうしてスクワットをしているか、
腹筋運動をしているんだ。30代後半になって筋肉が今までのような柔軟なものでなくなった。
だから維持するためには今まで以上の努力が必要なんだ」
「そうなんだけど、あなた、食事の時に椅子の上でスクワットを突然始めるのは今日はやめてね」
「何を言っているんだ。さっきぼくから話をしたのだから、そのくらいのことは了解してくれ
るさ。そうですよね」
4人は笑顔で応えた。
「了解します」
食事を終えて、洋間で寛いでいるとアユミの夫が話し始めた。
「よく妻に言われるんです。そんなにハードな練習をするんだったらマシンもあるしジムに行ったらと。
でもね、ぼくの場合ふつうの人ではできないようなことをこっそりとしているのですよ。さっき
していたスクワット、どこかちがうのですが、わかりましたか」
「さあ、踵をあげているとかですか」
「ちがいます。それはですね、30キロの鉛のジャケットを着ているのです。またこんなことも
ジムではできませんからね」
そう言って、アユミの夫は床に置いてある小さなトランポリンを部屋の中央に置くと、大きなジャンプをして
天井すれすれのところまで飛び上がり回転したりひねりを加えたりし出した。小川のふたりの娘は軽く口を
開いてじっと見ていたが、いつまでたっても終わらないので、もうお家に帰りたいと言い出した。夫は
それを横目で見るとそれまでより少し大きなジャンプをした。ゴンと大きな音がしてみんなの注目を浴びると
何事もなかったようにひねりを加えて着地した。
「どうも、トレーニングに夢中になってしまう質なもので...。ぼくはいつものようにあと2時間のトレーニング
をここでしないといけないので、後はアユミを小川さんところに行かせます」
その夜、小川は書斎で寝たが、眠りにつくとディケンズ先生が現れた。
「小川君、アユミさんがいつもそばにいるというのは心強いね」
「先生、お願いがあるんです」
「何だね」
「これからしばらくは私の家族やアユミさんとその夫が活躍するので、先生の小説についてのコメントが
少ししかできないのですが、今まで通り夢に出て来て下さい」
「......」