プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生72」

月に1回小川の家族はアユミの家に行き、すき焼き鍋をつつくのが恒例となっていた。
「本当に助かるわ。だってこの娘たち牛肉が大好き、ご主人のなじみの店から安く購入できると
 言っても...」
アユミの夫はしばらく、気にしないで気の済むまで食べて下さいと言って照れていたが、突然、椅子に
上がるとスクワットを始めた。
「あなた、今日はしないでとあれだけお願いしていたのに...」
アユミは途中で話を切ると、すかさず夫の鳩尾にパンチを入れた。
「ぐえーっ」
「今度はじめたら、次は...」
「わかった。ごめんなさい」
「おかあさん、なぜおじさんが謝っているの。私たち前から体操は了解しているのに」
「そうね。でも、今日はアユミさんが大切なお話があるから、静かに聞いていてほしいんじゃないかしら」
「大切というほどじゃあないんだけれど、今度の年末年始はみんなで一緒に帰阪しないかということなの」
「でも、新幹線は込むから6人固まって席を取るというのは難しいんじゃないかしら。それに年明けて2日には
 ご主人は仕事だったんじゃないの」
「そうなんだけど、小川さんも家の主人も12月28日から休みに入るし、その日だと席が取れると思うの。
 で、それぞれ実家で過ごすことになるけど、元日はここにいるメンバーで京都に初詣に行かない。帰りは私は
 主人と帰るので、その日の夜の新幹線に乗ることになると思うわ。良ければ、チケットを一緒に購入するけど」
「あなた、どう思う。アユミさんご夫婦のご好意に甘えることに...」
「そうだなー、ぼくとしては年末年始は何も予定はしていないし1月4日に出勤すればいいんだから、秋子さんの
 言う通りにするよ。それにしても子供たちを連れての正月の帰省はこれが始めてだから、元日以外は懐かしい
 思い出の場所にでも行ってみるか。でも、名所巡りというわけにはいかないから、退屈かもしれないよ」
「家族みんなで楽しい時間が過ごせるのなら、どこだって同じよ。楽しみだわ」
「それじゃー、これで決まりね。ところで、あなた、今から言っておくけど、新幹線の客席で筋力トレーニングは
 やらないでね」
「何を言っているんだ。それくらいのことはわきまえているよ。でも、あの小型のトランポリンを君の実家に
 送っておくのはいいだろ」
「仕方ないわね。了解するわ。ふふふ」