プチ小説「青春の光15」
「は、橋本さん。どうされたんですか」
「やぁ、田中君、君がなかなか会いに来てくれないんで、お邪魔させてもらったよ」
「すみません。実はネタがどうにも見つからなくて、気が付いたら年末になっていたんです」
「水臭いじゃないか、ぼくは田中君の元気な姿を見るだけで...」
「見るだけで、どうなるんですか」
「そりゃー、なんでもないさ」
「橋本さん、それはどういうことですか」
「気にしない、気にしない。ぼくはこのとおりのおしりさ」
「橋本さん、よく考えて発言していますか」
「うーん、ぼく、どうしようーっとぉ」
「橋本さん、暴走しないで下さい」
「それはどうかな、はははははははははあははは、はっはっは」
「橋本さん、疲れるからやめましょう」
「ふふふ、その手には乗らないぜ。たあーっ」
「橋本さん、面白くないですよ」
「そうか、わかっていたのか、田中君は」
「面白いことを考え出すのもなかなか難しいものです。お笑いのネタを売って商売をしている人は
大変な労力を要しているのです」
「そういうのは知らなかったな」
「普通の人の場合はいちから考えないといけないので本当に大変です。でもキャラクターで売る人は
それほど考える必要はありません。ただ、キャラクターで売る人は飽きられる前に新しいギャグを披露
しないと忘れられてしまいます。普遍的な20年使っていても新鮮なギャグがあれば別ですが」
「でも、関西のお笑い芸人の人たちは昔は面白いキャラクターで売る人が多くてギャグも面白かったのに
最近の傾向は少し違うな」
「彼らの活躍の場が広がり、場違いなところでギャグを披露しなければならなくなりとまどっているのでは
ないでしょうか。古い考え方かもしれませんが、お笑い芸人は寄席でうけてなんぼのもんだと思います」
「最近つらいことが多いんだから、今こそ彼らに頑張ってもらわないと。スタンダードナンバーに
「苦しみを夢に隠して」という曲があるが、「苦しみを笑いでくるんで」もらわないとこの世は闇が
深まるような気がするね」
「そうだと思います」