プチ小説「友人の下宿で」

「どうも最初の飲み会に懲りて、このやり方が定着してしまいましたね」
「金曜日の夕方に安城の下宿に集まり、寺石酒店で酒と肴を購入して、
 だべり、プロレスが終わったら、家路に付く。でもみんな貧乏学生だし、
 土曜、日曜はバイトや勉強で忙しいし、長く続けるにはこれでいいと
 思うけどなあ」
「みんなすまん。ぼくが悪いのさ。本来なら、夜を徹して激論を戦わせ
 たいだろうに。ぼくが怪獣の雄叫びのようないびきをかくものだから、
 それを恐れて一緒に泊れなくなったのはよく知っているし、申し訳なく
 思っている」
「高月さん、そんなことはないですよ。考え過ぎですよ。何なら、次回は
 河原町に出て、それから…」
「でも、おれは金がないよ」
「それにしても高月さん、よく続きますね。ドイツ語の予習」
「だから、前にも言ったように趣味の延長みたいなものだから、続けられる
 のさ。今度KBSホールで、どこかの音楽祭でやった歌劇「タンホイザー」
 のビデオが上映されるんだけど、誰か行かないかな。字幕なしのようだけど」
「時間はどれくらいですか」
「さあ、3時間位かな」
「高月さん、あなたは内容が理解できない会話を3時間も聴き続けられるの
 ですか。それに…」

「「タンホイザー」はどうでしたか」
「はじまって少しは頑張ったんだが…。1時間したら、熟睡していたらしい。
 出る時に隣の人がすごく迷惑そうにしていたけど、なんでだろう」
「やっぱり」

  註)1981年〜83年頃のお話です。