プチ小説「友人の下宿で28」

「みなさんお忙しい中お集りいただきありがとうございます。本日は高月さんがバロック音楽の初歩と
 いうことでお話と愛聴盤を聴かせていただけるそうです。それでは高月さん張り切ってどうぞ」
 「バロック音楽の時代にドイツで活躍したのはJ.S.バッハですが、それより少し前にヴェネチアに
 生まれたヴィヴァルディはイタリアで同様の活躍をした作曲家であると思います。協奏曲、独奏曲の他
 宗教曲(声楽曲)にも多くの作品を残しているのですが、ふたりの大きな違いと言いますとバッハは
 鍵盤楽器(オルガン、チェンバロ)をはじめ多くの管楽器や弦楽器の作品を残しているのに対し、
 ヴィヴァルディは圧倒的にヴァイオリンの作品が多く、それに続くのがチェロ、フルートの曲でしょうか。
 私の場合、ヴィヴァルディと言えば、「四季」と作品3の「調和の霊感」の一部、それからオーボエ協奏曲
 くらいしか知らず、今日はまずそちらをお聴きいただきましょう。いずれもイ・ムジチ合奏団の演奏でどうぞ」

「次は、みなさんがよくご存知のバロック音楽の名曲をお聴きいただきましょう。
 まずは誰もが知っている、パッヘルベルのカノン。それからアルビノーニのアダージョ。そしてもうひとつ
 マルチェッロのオーボエ協奏曲です。アルビノーニのアダージョは映画「審判」、マルチェッロの
 オーボエ協奏曲は映画「ベニスの愛」で使われてよく知られるようになった曲です」

「バッハと同年に生まれ、主にイギリスで活躍した作曲家ヘンデルはバッハと異なり、オペラやオラトリオの
 作品を多く手がけました。器楽作品を好む私は、「水上の音楽」と「王宮の花火の音楽」くらいしか聴かない
 のですが、今日はストコフスキーの花火の音入りの「王宮の花火の音楽」をお聴きいただきましょう」

「最後はやはりバッハをお聴きいただきましょう。グールドのピアノによる「フランス組曲」全6曲です。
 チェンバロによるヴァルヒアの演奏もすばらしいのですが、本日はこちらをお聴きいただきましょう」

「百田どうだった」
「ヴィヴァルディはヴァイオリンの曲ばかりで「四季」を聴けば十分という気がしてしまう。逆にぼくと
 違ってヴァイオリンという楽器に精通している人には、ヴィヴァルディの曲は興味深いのかもしれない。
 それでも、今日聞いた「調和の霊感」の中にはきれいな旋律もあったしまずはこの全曲盤でも購入して
 みようかな。高月さんはどう思います」
「いーや、それよりパッヘルベルのカノンが入っているパイヤール盤あたりがいいと思うよ。無理しない、
 無理しない」