プチ小説「さくらそうの花が咲く頃に2」

「ねえ、おかあさん」
「なあに」
「わたしが小学校に入ってすぐにここで話したことおぼえている」
「ええ、おぼえているわ。この花壇のことでおはなししていたわね」
「あれからおかあさん、プランターをたくさん買っていろんな花をつくるようになった」
「そうね、このねこのひたいのような庭ではおさまり切らなくなって来たの。玄関の出入りが
 しにくくなって、ごめんなさいね」
「いいえ、ちっとも。わたし、お花だいすきだから...。でも、ひとつお願いがあるの。でも...」
「遠慮しなくていいわよ。おかあさんができることなら、してあげるから」
「じゃー、ここに、やっぱり、やめておくわ」
「ふふふ、遠慮深いのね。できなかったら、できないって言うから、なんでも言ってみて」
「よし、それなら、言ってみるわ。わたし、おかあさんがいろんなお花をつくるのでとても
 楽しみ。さくらそう以外にもパンジー、フリージア、白百合、ガーベラなんかきれいで
 よかったんだけど、このまえ友だちのところに行ったら...」
「いろんなきれいなお花が咲いていたし、いちごやトマトを食べたとか...」
「どうしてわかるの」
「それはね、ひとつ屋根の下で長くいっしょに過ごしているとわかるものなのよ」
「それでわたしのおねがいは...」
「そうね、おかあさん、もっと研究していろんなお花を見せてあげようと思っているけれど、
 このお庭では限りがあるの。でも精一杯がんばるつもりよ。それから果物や野菜の栽培は
 農家出身のおとうさんに相談してみましょう。家庭菜園をレンタルしてくれるという話を
 聞いたことがあるから。娘といっしょに土いじりができるのなら喜んでやるよ。
 そう言ってくれると思うわ。わたしもときどきご一緒させてもらおうかな」
「ねえねえ、それなら今晩おとうさんにおはなししてね。きっと、きっとよ」
「はいはい、わかりました。ふふっ」