プチ小説「友人の下宿で31」

「みなさん、本日はお忙しい中たくさんお集まりいただきありがとうございます。いまから高月さんが
 重大な発表をされるということで、私どうなることかと気になっているのです。本日は今までに参加された
 ことのある、高月さんからの発表をどうしてもお聞きになりたと言われる百田君の友人の中から、体重の軽い方
 5名も特別に参加していただきました。いつものメンバーに加えて5名の方が加わり下宿の2階なので床が抜け
 ないか心配なのですが、それよりいまから高月さんが話される内容がとても心配です。ネタ切れなんて言われる
 のではないかと」
「......」
「そんなことはないですよね、高月さん」
「......」
「まさか、作曲家の特集で組めなくなったので、今度は同じレコードを使って、演奏家で特集を組もうとか、
 そんな...」
「安城、よく聞くんだ」
「聞いてますよ」
「ものごとはなんにせよ、多角的に見ることで新しい発見があるものだし...」
「でも、同じレコードを使うんでしょ」
「いや、そうでもないんだ。半分くらいかな、いや、もう少し...」
「ぼくたちはいろんなレコードを聞かせてもらえて、ありがたいことだとみんな思っていますが、レコードは
 ほとんど変わらずに高月さんの解説だけが変わるというのはどうも」
「どうも、いただけないと言うのかい」
「これはぼくからの提案ですが、それだったらいっそのこと、クラシック音楽というジャンルにとらわれずに
 高月さんが興味を待たれている音楽をジャンル別に特集を組まれて紹介されてはどうですか。高月さんはジャズにも
 興味をお持ちだと聞いていますし。それを高月さんが受け入れるなら、以前聞いたことがあるレコードがたまに
 出て来るくらいならぼくは我慢します。土曜日の夜の恒例行事としてみんながここに集まるのは、聞いたことがない
 レコードが聞けるからで、一度聞いたことがあるレコードがかかって、高月さんの解説だけが新鮮というのでは」
「おれが悪かった。確かに安城の言う通りだ。でも、みんな、ジャズに興味が持てるのかなぁ」
「正直言って、ぼくたちはクラシック音楽の方に興味がありますが、レコードがないのならそれも致し方ないかと。
 百田、どう思う」
「ぼくが土曜日の夜にここに来ているのは、高月さんの楽しい話が聞けるからだよ。いい曲が聞けたら、もうかった
 という感じなんだ。安城の注文は励ましの言葉と受け取って、今後もマイペースでやってもらったらいいんじゃない
 のかな。芸術鑑賞に当たり外れはつきものなんだけれど、高月さんの”芸術”にはぼくは高い得点を上げてもいいと
 思っている。それに名画と言われる映画は何度見てもいいものだし」
「ありがとう、百田」