プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生89」
小川は隣の席のイギリス人らしき人が京都まで一緒だとわかったので、話題を変えてみた。
「こうして2度も新幹線で隣の席となったのは何かの縁を感じますが、あなたのお名前をお訊きして
よろしいでしょうか。私は小川と言いますが」
「オウ 縁は異なモノトイイマスね」
「私には妻子がありますので、そちらの方はどうも」
「HAHAHAHAHA コレハジョウダンデス。私にも妻子はいますので。トコロデワタシはベンちゃんと
ヨンデクダサイ」
「それではあなたをベンさんと呼ぶことにします。ところでお仕事は。私は出版社の社員で社用で京都まで行く
ところなんですが」
「マア 仕事についてはごカンベン願いましょう。あなたがもしディケンズにさらに興味を持たれたら、
よりワタシとの距離が接近するかもしれないということだけ言っておきましょう。多分、2度あることは3度あると
言いますから、少なくとももう一度はお会いするチャンスがあると思いますので、あなたはそれまでに
ワタシタチの共通の話題に花が咲かせられるようにジュンビしておいてクダサイ。イイデスカ」
「わかりました。もう一度と言わずに何度でもあなたとお話したいと思いますが、とりあえず次回までに
共通の話題について少しでも多くの知識を蓄えておきたいと思います」
「ソウデスネ。翻訳ダケデなく研究書なども見ておかれたら、ハナシに花ガサクと思いマス」
「ではまた」
そう言って、小川が右手を差し出すとベンは微笑んでその手を握った。
小川が仕事を終えて、宿泊先のホテルの部屋に入ると卓上のカレンダーが目に入った。
<今は、1999年だから、ディケンズ先生の生誕200年の2012年にはまだ13年もあるけれど、
就職してから15年があっという間に過ぎたのだから、これからの13年もあっという間だろう。
今から思うと、周りのことがわからなくて時間を親が管理していた頃は時間が経つのが遅く感じたものだが...。
明日、仕事が終わったら出身大学の図書館に行ってみよう。ディケンズ先生の研究書もたくさんあったと
思うから>
小川が眠りにつくとすぐにディケンズ先生が夢の中に現れた。
「ベンちゃんの言うことは正しい。いろんな研究者が私のことを調べてくれるのは本当にありがたいことだ。でも、
私としては作品を読んでもらえるのが一番喜ばしいのだよ。そのためには、まだ翻訳されていないものだけでなく、
たくさんの翻訳家が私の作品を自分の解釈で日本語に訳してほしい。そうすれば...」
「そうすれば、先生のファンもきっと増えますよね」
「そうなんだ」