プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生107」
小川は前回と同様に都立多摩図書館の入口近くで相川を見つけると、近くの喫茶店に誘った。
「実は、小川さんがよろしければ、今日はぼくの拙い講義をお聴かせするよりも、一緒に古書店や
名曲喫茶に行ってみたい気がするのですが」
「相川さん、前回も私の身勝手を許していただいたのに、今回も同様のことをお願いしなければなりません。
つまり今日私は、ここで数時間過ごすことだけしか許されていないのです。それから2ヶ月先までは
休日は別にしなければならないことがあるのです」
「それは仕事ですか」
「いいえ、近く名曲喫茶でライヴをすることになり、メンバーの一人として演奏をしなければならなくなった
のです。クラリネットという楽器を初心者の私が一から勉強した上で練習しなければならないので、休日はそれで
精一杯なのです。ライヴは私の家族と妻の友人夫婦が一緒になってするもので、私の子供たちはそれをとても
楽しみにしているのです。みんな一所懸命にやっているので、自分が他のことをして練習を疎かにすることは
できないのです。相川さんのお話は楽しくて、有意義なのですがしばらくは...」
「そうだったんですか。それならできるだけ小川さんが満足する解決を探ってみましょう。まず2ヶ月先に再会
するまでは小川さんはご自分の家族のために有効に休日をお使い下さい。ぼくは、マイペースで講義ができる
ように準備しておきましょう。さて、ここでささやかな提案があるのですが、小川さんはそれを聞いてくれますか」
「いろいろお断りしてきたことですし、できるだけお受けしたいと思います」
「それはですね、今日、「面白い小説ってどんなんだろう」を4回分準備して来ているので、それを聞いていただけたら
と思うのです」
「うーん、そうですね、ひとつだけ条件があります。それを守っていただけるのなら、いいですよ」
「なんでしょう」
「先程も言いましたが、午後6時までに自宅に帰らねばなりません、そうですね、今から4時間以内にすべて終えられる
のなら拝聴いたします。仮に途中になってもいいとおっしゃるのなら、4時間ぎりぎりまで講義を続けられて、続きを
次回に聴かせていただくというのでも構いませんが...」
「いいでしょう。それじゃあ、とりあえず、4つの演題を言っておくとしますか。それは、「外国語を含めた多彩な言葉に
よって文章を引き立たせること」「シチュエーションの設定のために必要なこと」「感動的な台詞とはどんなものか」
「明るい小説というのは受けないか」です。なんとか4時間以内にすべてお話できるように頑張ってみます。では、
いつもの喫茶店に行くとしますか」
「そうですね、演題を聞いたところでは、一番最後のが面白そうですね。楽しみだな」