プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生114」

小川はスタジオから帰宅して軽い食事を済ませると、横になった。眠りにつくとディケンズ先生が現れた。
「やあ、小川君、演奏会がうまく行きそうでよかったじゃないか」
「そうですね。アユミさんもご主人も、最初だから参加することに意義があるというようなことを言われたので、
 ほっとしているんですよ」
「まあ、それでも、この機会にせいぜいじっくり練習してみんなの信頼を得ておくことだ。そうすればたとえ
 どんなハプニングが起きても慌てずにすむから」
「えーっ、そういうことは...」
「もちろん。今回もアユミさんとご主人は、小川君がビックリ仰天するようなことをやってくれると確信しているよ」
「うーん、やはりそうでしたか」

小川は午前10時過ぎに起きた後も、お昼近くまで書斎で時間を過ごしていたが、正午を過ぎると待ちかねた娘二人が
小川のところにやって来た。
「おとうさん、もうすぐ、お昼ご飯よ。お昼を食べたら、今日は演奏会の練習をわたしたちと一緒にしてほしいわ。
 私は、いつものように画用紙に書いた鍵盤じゃなくて、家にあるピアノを引くから聞いてね」
「わたしはちがうの。わたしは外国語の歌を歌うのよ。「ハレルーヤ ハレルーヤ アアハレルーヤ ハレルーヤ」
 こんな感じだったかしら」
「おとうさんは、まだまだ初心者でやらないといけないことがあるから、ふたりの演奏を少しだけ聞かせてもらうよ。
 今日はおかあさんにみっちり指導してもらうつもりだから、そのあとは、深美と桃香はアユミ先生のところで練習して
 くれないかな」
「はーい、わかりました」
娘二人の演奏が終わるのを見計らって、秋子がふたつのクラリネットを持って書斎にやって来た。
「昨晩と言うか今日の未明と言うか、アユミさんとご主人から話があったと思うけど、今回の演奏会は小川さんは
 そんなに目立たないから気楽にやってもらえばいいわ。それに何人かの人が集まって何か有意義なことをやるという
 のには失敗は付き物だけれど、恐れずにやればそれでいいんじゃないかしら。私は、小川さんと一緒に演奏する
 ための練習をするということで、10年前の二人が一緒に過ごしていた日々が甦って来ればすばらしいと思っているの。
 だって、ふたりで何かを一所懸命するというのって、最近なかったから...」
「そうかもしれないね。今回のことを切っ掛けにして、秋子さんや子供たちと話す機会が増えたのだから、演奏会を
 企画した甲斐はあったと思うよ。あとはどんな演奏会になるかだけれど...」
「何か心配事があるの...」
「二度あることは三度あると言うし...。そうだ柴舟を通信販売で購入しておこう」