プチ小説「はじめての紅葉狩り」
二郎とゆりえとその両親は、紅葉狩りを楽しむために高雄にやって来ていた。カメラマニアの父親は
新しいカメラのレンズを試したいと早々と別行動を取り、神護寺境内へと続く階段は3人で登った。
ゆりえが少し不満そうに話し出した。
「わたし、紅葉狩りって聞いたから、何かを取って帰るのかとおもっていたのに」
「そうねえ、少し残念だったかもね。それでも高雄のバス停から神護寺境内の入口までの紅葉はよく色づいて
いてきれいだったわ。いつもの年より今年の紅葉はきれいだとテレビでも言っていたし」
「わたし、紅葉って山全体がひがんばなのようになるんだと考えていたの。でも、きいろや少し色の落ちた
みどりもきれいね。いっしょにあるとほんとにうつくしいわ」
「ゆりえはまだ小学校2年生なのに詩人ね。おかあさんはね。あなたたちにいろんなものを見てもらって、
自分で感じて、心に残してもらいたいのよ。実際、ガイドブックで見る観光のための写真はどれもが錦に
色づいてきれいだけど、本当のところは年によって随分違うの。当たり年の良い時期にやって来られる
というのはむしろまれで、少しの紅葉で満足というのも...」
「僕は、久しぶりに家族で来れて良かったと思っているよ。高校を卒業したら、家族旅行はできなくなると
思うし...」
「そうね」
「わたし、みんなで出掛けるのが好きだから、これからも一緒に行きたい。みんなでこんなふうに手をつないで
歩くと、おひさまがほほえみかけてくれてるようで陽ざしがあたたかいと思うの。おとうさんもいっしょに
歩いてくれたらもっと楽しいと思うんだけれど。あっ、あそこに、もんのところにおとうさんがいるわ」
ゆりえが一生懸命に手を振ると父親はそれに気付いて3人のところにやって来た。
「さあ、おとうさんも一緒だよ」
そう言ってゆりえの手を握ると4人は並んで歩き始めた。