プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生123」

小川はそのあと特に用事がなかったので、相川に前から尋ねたかったことを訊いてみた。
「いつも西洋文学の独自の見解を楽しく拝聴させていただいているのですが、西洋音楽に興味をお持ちですか」
「もちろん、バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、メンデルスゾーン、
 ベルリオーズ、ショパン、ブルックナー、マーラー、R.シュトラウス、チャイコフスキー、ドヴォルザーク、
 ラフマニノフ、ドビュッシー、ラヴェル、ストラヴィンスキーなどなんでも聴きますね」
「オペラはどうですか」
「ワグナーの「タンホイザー」は聴きますが、他は...」
「楽器演奏はされますか」
「ええ、ピアノは高校生の時まで習っていて、今でも自分で楽譜を買って来ては、家で弾いています」
小川はニコニコしながら相川と問答していたが、今度はアユミの夫に向かって話し掛けた。
「じゃあ、ここで大川さんからアユミ・クインテットのメンバー募集のお知らせをしていただきましょう」
「やあ、小川さん、これは思いがけないことです。でも...」
「いいから、いいから、続けて下さい」
「それじゃー、お話ししましょう。相川さん、実は、私たちは阿佐ヶ谷のヴィオロンで何度かライヴをしたことが
 あるのですが、今まで皆勤賞で出演して来た私の妻が出産で出られなくなったのです。主要メンバーがいなくなるため
 2年間は活動中止と考えていたのですが、相川さんがピアノを弾かれるとお聞きすると...」
「ははは、そんなことなら、喜んでお受けしますよ。ただ、私も一応サラリーマンなので、いつでもオーケーという
 わけではありませんし、基本的には活動(ライヴと練習)は日曜日の午後だけにしていただけたら...」
「それは私たちも同じなので、特に問題はありません。それじゃあ、お別れする前に、大川さんから活動内容について
 説明していただきましょうか。それでは張り切ってどうぞ」
「当初は小川さんの奥さんのクラリネットとアユミ、これは私の妻ですが、のライヴだったのですが、今では小川さんの
 二人の娘さんと私が加わり5人になっています。小川さんも家族と一緒に演奏していただくことになり6人で前回の
 ライヴをすることになっていたのですが、アユミが近く出産することになったので、前回アユミは最後にライヴを
 盛り上げてもらうだけになりました。そしてしばらくは休止してもらうことにしました。アユミは私の伴侶なので
 難しい注文にも応えてくれるのですが、それをそのまま相川さんにお願いするつもりはありません。このように小川さんを
 交えて話し合って、どんなライヴにするか決めて行きたいと思うのです。小川さんから、相川さんは自称アマチュアの
 小説研究家で「面白い小説はどんなか」を研究していると聞いたのですが、私の場合も、アマチュアの面白い音楽の
 研究家と言えるでしょう。限られた人数、限られた楽器をフルに活用できるように原典を編曲して、聴衆を魅了する
 音楽を披露するというのがその活動趣旨なのです」
「何だか楽しそうですが、私にできるでしょうか」
「アマチュアなのですから、好きなことを精一杯やってみるというのでいいんじゃないですか」
「それなら、オーケーです」