プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生125」
その日小川は早い時間に帰宅できたので、家族と夕食を共にした。そこで前の日曜日に家族に持ちかけた話題を
再度取り上げてみた。
「この前話していたことだけど...」
「ナンノコト。ナンノコト」
「ヴィオロンでのライヴのことだよ」
「それならアユミさんが出産して、落ち着いてからにした方がいいと思うんだけど」
「でもぼくは相川さんに一緒にしようと言ったんだ。だから何とか」
「ナントカトイワレテモ。ナントカトイワレテモ」
「小川さんはきっと相川さんがアユミさんの代役をやって下さると思っているのだと思うけど、それは
難しいんじゃないかしら」
「相川さんは高校生までピアノを習っていて、今でも趣味でピアノを弾いていると言ってた」
「そうかもしれない。でもアユミさんは音大を出ていて、子供たちに指導することもできるし演奏は
プロとしても通用する。何より子供たちが知らないおじさんと一緒に演奏することに興味を持つかしら」
「キョーミナイ。キョーミナイ」
「深美も、桃香もよく聞くんだ。アユミ先生が戻って来た時に、「すごいじゃない。よく頑張ったわね」
と言われたくないのかい」
「おとうさんの気持ちはよくわかるわ。でもアユミ先生の代わりをご主人がするのよね。ご主人から
習ったことはないの。レッスンも発表会の練習もみんなアユミ先生が教えてくれたのよ」
「わたしは違うの。発表会のお歌はご主人にほんの少しだけ教えてもらったの。でも30分くらいかな。
ピアノはいつもアユミ先生が教えてくれた。だからアユミ先生がいないと」
「ぼくは継続は力なりと思っていたんだが...」
「それはちょっと違うんじゃないかしら」
「チョットチガウ。チョットチガウ」
「じゃあ、この場合どう言ったらいいのかな」
「そうねぇ。時節到来を待つというのでいいんじゃないかしら。アユミさんのレッスンが受けられないので、
しばらくは私が子供たちを指導しようと思っているわ。それから子供たちが望めば音楽教室に行かせようと
思っているの。小川さんも、アユミさんのご主人や相川さんという方としばらくやってみてはどうかしら。
私は自分で練習するわ。そうそう小川さんがよければ、いつでもクラリネットの練習につき合うわよ。
そうしてアユミさんが戻って来たら、みんなで一緒にやればいいじゃない」
「ソノトオリ。ソノトオリ」
「よくわかったよ」