プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生137」

小川は大川と一緒に最寄りの駅まで帰って来たが、今夜の夕飯は私の担当ですのでスーパーに寄って帰りますと
大川が言ったので、そこで別れた。家に帰ると秋子と娘2人が小川の帰りを待っていた。
「お帰りなさい。ところで今日は相談したいことがあるんだけれど、少し時間をいただいていいかしら」
「どうしたのそんなに改まって」
「実はもうすぐ夏休みに入るけど、この子たちを私の実家に預けようかと思っているの」
「それはどうしてなの」
「それはこの前に小川さんが、自分が小さい頃に父親の実家がある岡山の田舎に預けられて1ヶ月を過ごしたと
 言っていたから。違った環境の中に置かれると普段と違った体験ができる。そういうことはどんどんやったほうが
 いいと言ってたでしょ。それでこの子たちにもそういうことを体験してもらって...」
「それはいいかもしれない。でも東京と京都の生活はあまり変わらないと思うし、第一、秋子さんのご両親に大きな
 負担を強いることに...」
「ふふふ、負担を強いるなんて...。両親がどんなに孫と会えることを楽しみにしているか。特に小学生の頃は思春期に入る
 前だからただ可愛いばかりで、おじいちゃんおばあちゃんとしては1時間でもいいから一緒に過ごしたいと思うものなのよ」
「で、どうやって向こうに行くの」
「両親が迎えに来てくれるわ。夏休みの宿題をどうするか、うちでするかむこうでするかによるけど、3週間くらい
 預かってもらおうかなと...」
「で、深美と桃香はどうなんだい」
「わたし、おとうさんとおかあさんに会えない日はなかったけれど、最近はおとうさんと会えない日が多くて。それにアユミ
 先生の授業はお休みだし。おかあさんが、京都でしばらく過ごすことはいい経験になるわよと言うから、行こうと思うの」
「わたしは違うの。おかあさんが生まれて育った京都の街をおじいちゃんやおばあちゃんに案内してもらうの。そうすれば
 おとうさんやおかあさんと話す時にわからないことがなくなると思うの」
「ということで、ふたりも京都でいいこにしているということだから」
「もちろん、ぼくとしては3人で決めたことに反対することはないさ」

その夜、小川は書斎で寝たが、眠りにつくとディケンズ先生が現れた。今日は赤ん坊をしょって、がらがらを持っていた。
「小川君、子供というのは本当に可愛いもんだね。苦労は尽きないが、それに見合う楽しみを与えてくれる。将来に希望を
 持てるかどうかは、子供に託すことができるかどうかだ。君にはかわいい子供がふたりもいる。よく言われることだが、
 かわいい子には旅をさせろだよ。わかるね」
「先生、もちろん今回のことは反対ではありません。でも、我が家の経済的事情が反映して...」
「まあ、それもあるだろうが、外的な力が働いて物事が勝手に好転したなら、ラッキーとでも言って指を鳴らせばいいん
 じゃないかな」
「それならいいんですけど」