プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生146」
小川はしばらく小説の余韻を楽しんでいたが、大川が咳払いをするので相川に話し掛けた。
「今日は本当に楽しませていただきました。相川さんが語り部となって自分の小説を朗読される姿は目に焼き付いているので
一生忘れることはないでしょう。できれば、将来の参考にしたいので、今まで読まれた小説のコピーをいただきたいのですが」
「将来の参考といいますと...」
「実は、ある女性から休日を有意義にするために何かしたらと言われて、50才までに小説を書くと宣言したんです。まだ
十数年先のことですが、それまでにいろんな興味深い小説を読んで参考にしたいと思っているのです」
「私のでよければ、お渡ししますが...。それよりももう少しそれについてお力になれるかもしれません」
「といいますと」
「まあ、とても失礼な言い方になりますが、私でよければ、できたものを読ませていただいて添削させていただくこともできるかと」
「それはとてもありがたいですが、いつになることやら」
「いえいえ、思い立った時が創作意欲が最高潮の時ですから、その瞬間を大切にしてすぐに文章を起こして郵送して下さい。
なるべく早く目を通して朱筆を入れて返送させていただきますので。決して、まとまった量は必要でありません。私の小説のように
原稿用紙1〜2枚分の量で残して行けば、積もり積もれば相当の量になります。例えば、毎月原稿用紙2枚のペースで10年
続けると240枚になりますから、これは立派な長編小説になります。それに折々の話題を取り込むこともできるので
ネタが尽きてしまう恐れもないと思います。いつでも、送って下さい。楽しみにしていますので」
「それじゃー。その節には是非ともよろしくお願いします。それから、ヴィオロンでのライヴの話ですが...」
「このことについては、われわれ3人が中心になるということを忘れないで下さい」
「と言っても、わたしのたどたどしいクラリネットは少しだけにして、相川さんのピアノ、大川さんの歌、私の妻のクラリネット
私の長女のピアノなんかをお客さんに楽しんで...」
「うーん、そこは私の考えと少し違いますね。私たち3人で失敗を恐れずに仲良くやろうということだったのでは」
「それでは、私からの提案ですが、近くロンドンに留学する、小川さんの娘さんのために私の編曲したものを演奏してもらっても
いいですか...」
「そうなんですか。奇遇ですね。で、楽器はピアノなんですね。これを機会にその娘さんと親しくなっておくのも悪くないな。
同じロンドンでしばらくは暮らすわけだし、子供たちが一人暮らしを始めて空隙ができた我が家の新しい一員となっていただけると
有難いなあ。まあ、練習の時に親しくなれたら、ロンドンでも仲良くやりますよ。今度の練習の時には妻も来させることにします」
「ではご理解いただいたとして演目のことですが、前にも言ったように3部構成で、第1部は相川さんがショパンの曲を演奏する、
第3部は大川さんが編曲したものをみんなで演奏するということになりここのところはそれぞれが最初の演奏までに内容を検討
しておきますが、今日は小川さんが担当する第2部をどうするかについてもう少し検討しておきましょう。小川さんはどのように
したいとお考えですか」
「さっき少しお話しましたが、妻と娘二人にも出てもらってそれから大川さんに伴奏してもらって、賑やかにやりたいんです。
できれば、娘とショパンの「別れの曲」をやれたら言うことないんですが...」
「ああ、それならいい楽譜がありますよ。ロンドンの出版社が発行したもので、「別れの曲」の他にも、エルガーの「愛の挨拶」、
グリーグの「ソルヴェイグの歌」「遅い春」、リストの「愛の夢」、マルティーヌの「愛の喜び」、チャイコフスキーの悲愴
交響曲第1楽章のテーマなどピアノ伴奏で演奏できます。小川さんは娘さんと相談して、この中から何曲か演奏されればよいと
思います」
「それでは、我が家の演奏内容については家族に相談して、初練習の時までに決めておこうと思います。で、ライヴはいつにしますか」
「11月の最後の日曜日なんかがいいのでは」