プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生168」
小川が相川と大井町で会った翌日の朝、小川は少し早く起きて秋子と桃香のために朝食を作ることにした。
<ご飯は昨晩炊いているようだから、炊飯ジャーのをそのまま使ったらいいな。ではみそ汁と卵焼きを作ってみようかな。
えーと、冷蔵庫の中に何かないかな...。若布があるからこれとタマネギとをみそ汁の具にしよう。それから
いいのがある。辛子明太子があるから、これは食べ易いように包丁を入れておこう。最近は、和風だしがあって
何もしなくてもいいダシがでるから、僕なんかでもおいしいみそ汁が作れる。おや、桃香が起きて来たぞ>
「おとうさん、朝早くから何をしているの」
「今から、みそ汁と卵焼きを作ろうと思うんだ」
「そう、でもおとうさんのおみそ汁は...。あっ、おかあさん」
「あら、おとうさんが朝食を作ってくれるの。それはありがたくいただかないと。でも、お味噌の量だけは私が
チェックさせてもらっていいかしら」
「いいよ。でも他は大丈夫かな。卵焼きはどうかな」
「まあ、卵焼きも作ってくれるの。うれしいわ。そうねえ、おとうさんが了解してくれるのなら、スクランブルエッグに
塩こしょうをふりかけるだけにしてくれたら、あとは醤油なりケチャップなりをかけていただくけど」
「了解しました」
「ところで、昨日はクラリネットの練習で帰りが遅くなったんだけれど、帰りに相川さんとばったりでくわしたんだ。
相川さんと話をしていて、深美がこちらに帰って来た時の話が出たんだけれど、イギリスに帰る日の昼食は...」
「もしかして、昼食に相川さんも入ってもらうってことかしら」
「私は、反対。家族水入らずがいいと思うわ」
「でも、桃香、相川さんはイギリスで深美に親切にしてくれているようだし、ぼくとしては深美が一緒にいる時に
お礼を言っておきたい気がするんだ。これからもお世話になることだろうし」
「おかあさんはどう思う」
「そうねぇ、深美は相川さんと仲がいいから楽しいだろうけど、私たちはおとうさんがいる時に久しぶりに会う
深美とゆっくり話したい気がするし..。そういうことなんだけど、どうかしら」
「そうだな、これからも同じような日程になるだろうから、最初に相川さんに入ってもらうことになるとそれを
続けることになってしまうかもしれないなぁ。ちょっと考える時間がほしいな。明日の朝食まで待ってくれないか」
「そうね、ディケンズ先生なら、いい方法を考えてくれるかもしれないわね」
その夜、小川が書斎で眠りにつくと夢の中にピクウィック氏が現れた。
「ややや、今日はあなたの当番なんですか」
「いいえ、そういうわけではないんですが、今日は先生が忙しいのでぼくが小川さんのお話を聞きます」
「そうですか、それじゃー、相談に乗っていただきたいのですが、久しぶりに帰国する長女の昼食会にお世話になっている
方を招くべきか、それとも家族水入らずにして娘の話を家族で聞く方がよいのかということなんですが」
「二者択一ですね。それならぼくの小説の第4章で登場するこの帽子を使いましょう。帽子の天辺が上なら水入らずで、
下なら相川さんを招くということにしましょう。では投げますよ。せーの」
ピクウィック氏が投げた帽子は、折からの強風に煽られて舞い上がり、側にあったポプラの樹の枝に突き刺さった。
しばらくふたりは帽子を眺めていたが、落ちて来そうになかった。
「こういった場合には、どうなるのでしょうか」
「そうですね。多分、自分で考えなさいということになるんでしょうね」
「......」