プチ小説「ポエム(詩曲)」
「どうやら間に合った」
ふたりは京都駅の新幹線の東京行きのホームに着いた。
「学生時代も愈々終わりだね。これからはしばらく仕事で忙しくなるから、会えないね」
「大阪と名古屋なんだから、いつでも会えるさ」
「前から思っていたんだけど、大学に入ったばかりの頃は、フォークソングばかり聞いていた君がなんでまた
クラシックファンになったか、知りたかったんだけど」
「それはまったく偶然のことなんだ京都のどこだったか、ピアノのショウルームである曲を聞いたんだ。女の子が
一所懸命に引いていたんだけど、なぜかそれがぼくの心の琴線に触れた。恥ずかしくて、「なんて曲?」って
聞けなかった。でも、ある日ラジオで、フルートの独奏でその曲を聞いたんだ。それはチェコの作曲家フィビヒの
「ポエム(詩曲)」って曲だったんだ」
「でも君はメッセージがない音楽は物足りないって言っていたのに」
「そう言ってたなぁ。でもこの曲を聞いて言葉を超える何かを美しい旋律は持っているような気がしたんだ。平凡な
言葉で言うなら、普遍性と言うのかな。音楽(旋律)は万国の共通語とも言える。音楽は言葉なしでもメッセージを
伝えることができる。もちろん人によっても国によっても感じ取ることは同じじゃないだろうけれど。そんな懐の
深さのある、長い年月でも朽ちることがなかった音楽にかかわって行きたくなったのさ」
「不易と流行どちらも大事にしないといけないと思うよ。特に君は思い込みが激しく、こうと思ったら、頑固なんだから」
「ははは、そんなに頑固だったたかな。自分の殻の中に閉じこもってしまわないうちに、君に連絡するようにするよ」
「そうだね。それじゃ電車が来たし、行くよ」
そう言って安城が差し出した手を、高月は握った。