プチ小説「友人の下宿で4」
「おい百田、いくら前回の高月さんの話が良かったからと言っても、5人も連
れて来たら駄目だよ。4畳半に10人も入るのは今回だけにしてほしいな」
「そう言われても…、参加したいと言われたから…。高月さんはどう思います」
「ぼくは大歓迎だが、木造2階建てで上の階でするのだから、床が抜けないかが
少し心配だ。ここは野山が言うようにしてもらった方がいいように思うな」
「今日はオペラと言うことですが、何を聞かせてくれるんですか」
「ワグナーの「タンホイザー」を聞いてもらおうと思う。有名な序曲に続いて、
第1幕、最初はヴェヌスベルクの情景。ヴェーヌスとタンホイザーが現れ、
タンホイザーは愛欲の女神ヴェーヌスを称えるが、歓楽に飽きたタンホイザー
は故郷ワルトブルクに帰りたいと思うようになる。ようやくヴェーヌスから逃
れたタンホイザーは、故郷に向かう途中で巡礼たちと出会い、彼らの歌に感動し
涙を流しながら祈りを捧げる。この時に流れるのが、序曲の出だしの旋律で、
誰もが感動させられる旋律だ。その後、旧友との再会があり、タンホイザーは
故郷ワルトブルクに迎え入れられる。第2幕は有名な入場行進曲から始まり、
やがて歌合戦が始まるが、タンホイザーがヴェーヌスを称えてしまったため、
歌合戦に集まった人たちから驚き怖れられてしまう。人々はタンホイザーを罰し
ようと詰め寄るが、恋人エリーザベトが必死に食い止める。タンホイザーは、
信仰に戻る決意をしてローマに行くことになる。第3幕は、エリーザベトが、
聖母像に祈りを捧げるところから始まる。タンホイザーが無事帰って来るよう
にと祈っているのだが、ローマから帰って来る巡礼の中にタンホイザーの姿は
見られない。タンホイザーの友人である、ウォルフラムがエリーザベトのこと
を思って歌う、「夕星の歌」が歌われるが、ここは第3幕の白眉だ。やがて
やつれ果てたタンホイザーが現れ、ウォルフラムに経緯を語るが、「法皇に、
杖に葉が芽吹いたり、花が咲いたりしないのと同様にようにあなたは救われる
ことはない」と言われたと話す。絶望してヴェヌスブルグへと戻ろうとするのを
引き止めたのは、タンホイザーが無事に戻ることを祈り続けてそれが満たされず
に亡くなったエリーザベトの遺骸の葬列だった
。タンホイザーがエリーザベト
の名を叫ぶと出現していたヴェーヌスは消え失せるが、タンホイザーもエリーザ
ベトに身を伏せて、息絶える。巡礼が持つ杖には葉が生え、花が咲いていた。
誰だ、まだ曲が始まっていないのに、居眠りしているのは。安城どう思う」
「ぼくも途中何度かありました。やっぱり、一幕ごとの解説にした方がよかった
でしょうね。一幕毎にもう一度同じ解説を入れられたらどうですか」
「やっぱり。君もそう思うか」