プチ小説「青春の光20」

「橋本さん、あなたの友人、船場弘章さんの本は売れていますか」
「「こんにちは、ディケンズ先生」のことだね。正直言って、伸び悩んでいるというのが正直なところだ。
 昨日も船場君に会ったんだが、同じコンタクトを5年間も使っているからかもしれないが、可哀想に眼が潤んでいた」
「なんとかしてあげることはできないんでしょうか」
「そうだなー、ところで田中君は、「こんにちは、ディケンズ先生」読んだと言っていたが...、率直なところどう思うかな」
「楽しく読ませてもらいました。最初、評論のようなことが書かれてあるのかなと思っていました。というのも
 最後のところに参考文献が上げられているからです。でもそうではなくて、掻い摘んでディケンズの著作に触れるという
 程度なので物語を楽しむ上で気になるということはありませんね。ユーモア溢れる小説で、少ししんみりとさせる
 ところがありますね」
「そうなんだ、どうもディケンズの小説についてのコメントが中心の固い小説と思われているみたいだが、小川という
 男性が成長して行く姿を描いたものなんだ。で、どこにディケンズが出て来るかと言うと彼の夢の中に
 出て来るのだが、なぜ彼の夢に出て来るようになったかは、第1話を読めばわかるようになっている。
 他にも魅力的な登場人物がいるが、特にヒロインの秋子は魅力的に描かれている。秋子の友人のアユミ、アユミの
 夫なんかも愉快な人物だ」
「僕は遅読なのですが、この本は4時間で読み終えました。というのも75話ひとつひとつがひとつの小説のようになっており、
 最初にシチュエーションの設定をしてくれているからです。情景を思い浮かべておいて会話を楽しんでいれば1話1話すぐに
 読めてしまうし、それを楽しみながら続けているうちに183ページをあっという間に読み終えたという感じです」
「そうだな、途中、想像力をかき立てる挿絵が3枚あるし、舞台は東京と京都で、東京では、渋谷、お茶の水、上野、阿佐ヶ谷、
 京都では、円山公園、上七軒、衣笠が描かれているところがあってそこのところは特に興味深く読ましてもらった」
「主人公は夢の中に出て来る、ディケンズのことをディケンズ先生と読んで尊敬していますが、師弟関係という堅苦しいもの
 ではなく、友人という感じなのもいいと思います。そうでありながらディケンズ先生は的確な指示をして主人公を導いて行く」
「まあ、この本について語り始めると話が尽きることはないのだが、船場君は既に180話以上書いており、売れ行きが
 よければ第2巻をすぐに出してもらえると出版前には張り切っていたのだが...」
「ちなみに第2巻、第3巻を船場さんはどういった内容にされるのでしょう」
「第1巻では主要な登場人物の紹介が中心だったが、第2巻では小説について楽しい考察を試みている。また第3巻では
 船場君が好きなクラシック音楽について演奏をする人、演奏を楽しむ人、レコードを楽しむ人の口を借りて様々な角度から
 音楽の素晴らしさを語るつもりだそうだ。第2巻では、「大いなる遺産」「二都物語」「クリスマス・キャロル」について
 ディケンズ先生と小川とのやりとりがある」
「そうですか、来年はディケンズ生誕200年ということなので、その大きな波に乗れればいいですね」