プチ小説「青春の光21」

「どうしたのかな、田中君、暗い顔をして」
「橋本さん、あなたの友人の船場弘章さんのことなんですが...」
「彼の小説「こんにちは、ディケンズ先生」のことを心配してくれているんだね」
「ええ、なんとかしてあげられないものかなと」
「その気持ちはうれしいが、何度も苦悩を経験した彼のことだ。今回ももう少しすると歓喜を経験して、
 うれしそうにその過程を語ってくれるかもしれない」
「かもしれない?ですか」
「そうだよ。人生すべてが上手く行くとは限らないということは、田中君も自分の経験に照らし合わせると
 わかることだろう。それだからこそ、苦悩を突き破ることができれば喜びも一入ということになるんだ」
「そうかもしれませんね」
「私は船場君以上に苦悩を経験しているが、残念ながら歓喜は数える程しか経験していない。それでも
 陽気に明るくが信条で、辛い時でも笑って誤摩化すことにしている。ほら、このとおりだ。
 はははっはははははっはっっははははぁーはぁー...」
「やはり、気合いが入らないようですね。笑えるネタかどうかわかりませんが、「こんにちは、ディケンズ先生」
 の宣伝のための案を少し考えて来ました。実現不可能かもしれないけれど、これができれば、もしかしたらうまく
 いくかもという...」
「面白そうだ。聞こうじゃないか」
「ぼくは以前、電車に乗った時に1つのシートに掛けている人全員が、同じ雑誌を読んでいたのを見たことがあります。
 その効果があったのかどうかわかりませんが、その雑誌はそののち売り上げをどんどん伸ばして行った記憶があります。
 それと同じことをぼくたちでやってみようと思うのですが人員が...」
「まあ、雑誌ならまったくありえないとは考えないかもしれないが、単行本というのは考え難いだろう。実際、田中君が
 見たのも、偶然そう言った場に居合わせたのかもしれないし...。いっそのこと東京の山手線でよく見るように電車の
 車体に広告を入れるとか、阪急電車でよく見るように車内の広告すべてを自分のにしてしまう方が...」
「でも予算から考えると無理でしょうね。それではこんなのはどうですか。サンドイッチマンによる宣伝というのは」
「サンドイッチマンねぇ。私が考えた提灯による宣伝と余り変わらないような気がするが」
「そうですね、書名や著者名を書くだけでは人目を引かないでしょうね」
「それで...」
「例えば、例えばですよ...、こんなのはどうです。この本を読めば、数回の爆笑、少なくとも1回の涙が経験できます」
「うーん、確かに私も船場君の小説を読んで、何度か思わずニヤリとしたことがあったな、それから手紙が出て来る
 あのあたりは確かに泣かせるな」
「今のは例ですが、こんな感じで宣伝文句を考えてみようと思っています。そうして読者になってもらう人に興味を
 持たせることができれば」
「でも、宣伝文句が決まっても、どこでそれを見てもらうんだね」
「基本的には提灯の場合と同じですが、サンドイッチマンにはぼくがなります。橋本さんは前と同じように客寄せの何かを...」
「よし、わかった。じゃあ、宣伝文句を考えておいてくれ」