プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生191」

小川は、秋子、桃香と病院から帰って来るとしばらく布団の横で秋子の様子を見ていたが、秋子が眠った様子を
見ると桃香に一声掛けて大川の家に出掛けた。
玄関のベルを鳴らすと、しばらくして息子の音弥が扉を開けて、オマチシテイマシタと言った。
「やあ、お父さんはいるかい。ああ、大川さん、突然、お邪魔してすまないですが、ちょっと相談に乗っていただきたい
 ことがあるんです。実は今日、秋子が体調を悪くして病院に行ったのです」
「まあ、小川さん、こんな玄関先で話をするのもなんですので、奥に入りませんか。アユミと上の子は、今出掛けています。
 丁度、誰か話し相手はいないか、誰か訪ねて来ないかなと思っていたんです」
「では、少しお邪魔することにします。おお、これはすごい」
「音弥、そんなことをしているとまた頭をテーブルにぶつけるから...。いつもこうなんですよ。押し入れの中に小型の
 トランポリンを隠すのですが、引っ張り出して来ては宙返りを始める」
「それじゃー、将来はそういったことを...」
「いえいえ、この子は本当に気配りが利く子で、プロレスファンの私が何をすると喜ぶかよく知っているんですよ。確かに
 今は宙返りだけですが、もっと高度な技を覚えて行くことでしょう」
「......」
「でも、実のところはお母さん子で、アユミがいる時はぼくの相手なんかはしてくれません」
「というと」
「やはり音弥も音楽に興味があるようで、アユミが弾くピアノに耳を傾けてにこにこしているのをよく見ます。まあ何か
 楽器ができるようになれば、すぐにそれに熱中するんでしょうが、まだ小さいから...。ああ、自分の家のことばかり
 話してしまいました。すみません。で、ご用件は...」
「さっき話したように秋子が体調を悪くして、今日、病院に行きました。過労が原因でしばらく安静にしていれば良くなる
 でしょうが、今のような生活を続けていれば、また同じように...」
「なるほど、それで小川さん、相川さん、ぼくとで楽しく過ごす時間を我慢しようと思われるのですね。残念だな。どうでしょう、
 問題を少し整理してみませんか。小川さんは、秋子さんの負担を軽減したいと仰りたいのでしょうが、例えば休日の
 家事をなるべく自分1人ですると宣言したとしても、いずれそのうちには秋子さんや桃香ちゃんが手伝ってくれることでしょう。
 お父さんが仕事で忙しいからと言っても、自分の仕事だから家事は自分でやりなさいとは言わないでしょう。確かに小川さんが
 休日にしなければならないことは増えるでしょうが、毎週必ずそれをしないといけないということはないと思う。今日は
 相川さんたちと山に登るから家事は頼むと言えば、秋子さんか桃香ちゃんがやってくれるだろうし、今日は寄り合いがあるから
 昼から外出すると言えば、どちらかが夕飯のことを考えてくれるでしょう。小説を書くのも時間を見つけて書いて行けば
 いいと思います。なにも2ヶ月に1度は必ず会いましょうと言っているのではなく、会えることは楽しみですがお互い
 仕事がありますので、よろしければお会いしましょうと考えているのは相川さんも同じだと思います。一応、2ヶ月に一度
 お会いするとして、都合が悪ければ中止にするということでいいんじゃないですか。このことはぼくから相川さんに伝えて
 おきます。そうだいっそのこと、来月予定している寄り合いは取りやめて、来月は3人で高尾山に登りませんか、登りながら
 小説以外のことをあれこれ話すのもきっと楽しいと思いますよ。小川さんがよろしければ相川さんにこのことも言っておきます」
「大川さんのお話は尤もですが...」
「小川さんは自分1人でなんでもやってしまわないと納得できないようですが、ここは家族に協力を求めてもいいところだと
 思いますよ」