プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生200」

小川がペンを置いて外を見ると、雨は止んでいた。
<雨というのは嫌な天気という考え方もあるし、恵みの雨という考え方もある。雨は物事を行うには妨げになることが多いが、
 しっとりと身体を包んでくれる時には心地よいこともある。ほとんどの人がひとつの見方をしていて窮屈になって
 いるのを別の角度から自分の意見を述べて読者に共感を持ってもらう、こういうやり方で行くと無限の可能性があるから
 活路も開けるかもしれない。ああ、リクエストした、モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲が始まった。
 本当に心地よいなあ。少し居眠りでもするか>

小川が眠りにつくと夢の中にディケンズ先生とピックウィック氏が現れた。
「おふたりお揃いというのは珍しいですね。なにかよいことがあるのですか」
「そうなんだ、小川君。もうすぐ君との付き合いが四半世紀になるし、私の生誕200年も近い。そこで事務局に交渉したところ」
「事務局ですか...」
「そうさ、その事務局が、小川君の夢の中に私の小説の登場人物をもう1人...」
「そうです、私以外にもう1人登場させてもよいと言われたのですよ。これは先生のファンとしてはこの上ない名誉なことです」
「へえー、でももう1人というのは誰なんですか」
「小川君、ここがみそなんだが、実は好きな人物を君が選べるのだよ。多分、君はマーティン・チャズルウィットの登場人物は
 最初から考慮に入れないだろうな」
「小川さん、どうせなら自分が好感を持つ人物がいいですよ。長い付き合いになるんですから」
「というと」
「もちろん半永久的に断続的に君の夢に登場することになる。時にはわれわれと一緒に登場して、小川君と会話を交わすことに
 なるだろう」
「そうですか、でも、急に言われても...。困ったな」
「まあ、慌てないで、自分が好きな登場人物を上げて行ってみたらどうかな」
「そうですね。それじゃー、「オリヴァ・トゥィスト」のローズ・フレミング、「ドンビー父子」のフローレンス・ドンビー、
 「デイヴィッド・コパフィールド」のアグネス・ウィックフィールド、「荒涼館」のエスタ・サマソン、「リトル・ドリット」の
 エイミー・ドリット、「互いの友」のベラ・ウィルファー、「二都物語」のルーシー・ベネットの中でどなたかを選んで下さい」
「なるほど、小川君は私の小説のヒロインに興味があるようだな。でも、「荒涼館」のデッドロック夫人や「ドンビー父子」の
 マックスティンガー夫人なんかも、味わい深い人たちだから、こうして話をするのも楽しいかもしれないよ」
「どうでしょう、今、「ドンビー父子」を読み始めたところでもあるし、フローレンス・ドンビーがいいと思うんですが」
「先生、どうせなら、マックスティンガー夫人も一緒に登場してもらったら、賑やかでいいですよ」
「ほう、それは面白い。もう1人登場してもらっていいか、事務局に訊いてみるよ」
「......」