プチ小説「青春の光23」

「は、橋本さん、どうされたんですか。元気がないですよ」
「わかるか、田中君。実は、船場弘章君の「こんにちは、ディケンズ先生」の売り上げが伸びないものだから、
 私も落胆してしまって...」
「そうですか」
「だから、ぼくは船場君にこう言って聞かせるんだ。一回の失敗がなんだ。失敗は成功の元と言うじゃないかと」
「失敗!?!?!?それでは少し船場さんが可哀想だと思います」
「ははは、冗談だよ。ほんとはこう言うんだ。君の辛さはよくわかるが、女に逃げられた私の辛さよりマシだろうと」
「それもちょっと違うと思います」
「じゃあ、これはどうかな。人生は体力勝負というのに休みの日に外に出ないで小説ばかり書いているから、6段腹に
 なって、お尻が垂れて来るんだ。悔しかったら、私みたいに引き締まった尻になってみろってんだ。ぷりぷりぷり」
「橋本さん、今の笑い話は余り可笑しくなかったです」
「そうか、やはり船場君に気を使って、中途半端なギャグで終わってしまうようだな」
「それならいつか全開のギャグを聞きたいものですね」
「そうだ全開と言えば、船場君は以前にも少し言ったが、「こんにちは、ディケンズ先生」が売れて、次の出版が認められたら、
 いろいろなことを考えていたようだ。今となっては、過去の話となってしまったが...」
「そんなー、まだ出版されて5ヶ月しか経っていないのですから、もう少し希望を持って、待っていて上げて下さい。
 それよりどんなことを企んでいるのですか」
「それはだな、前にも言ったように、「こんにちは、ディケンズ先生」の続編が書かれていて、2巻はすぐにでも
 出せるだけの原稿はできている。船場君の話では1巻より面白いかもしれないと言っている。また彼のプチ小説には、
 「こんにちは、ディケンズ先生」だけでなく、この「青春の光」や「たこちゃんの●◯」「友人の下宿で」
 「希望のささやき」「耳に馴染んだ懐かしい音」などのシリーズ化された楽しい作品が他にもあるので、船場君が
 以前書いていた短編小説と共に日の目を見ることがあるかもしれない」
「なるほど、それは楽しみですね」
「彼は現在、クラリネットを習っていて、そのレッスンを実況生中継した、「クラリネット日誌」ももうすぐ丸3年になる」
「3年も習っているということは、さぞかしお上手なんでしょうね」
「残念だが、それは勘違いだ。でもたまに同じクラスの人から、ええ音やねーと言われて鼻を東京スカイツリーのように
 高くしているようだ」
「他にも何かありますか」
「彼は山登りが趣味で、「登山者」というタイトルの小説をいくつか書いているが、槍ヶ岳や穂高連峰を訪れた時の体験記を
 7つ書いている。ライカで写した山の写真も彼のお気に入りだ」
「そんなにいろいろやっているのだから、ひとつくらいは一般的に受けるかもしれませんね」
「でも今回のチャンスを生かさせて、順風に乗らせて上げたい気もする」
「それには、橋本さんの全開ギャグが役立つと思いますよ」
「よし、それじゃあ次回までに考えておこう」