プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生9」

京都に向かう夜行バスの中。小川は、なかなか寝つけないでいた。
急ぎの用事があるので、次の休みに京都に帰ってほしいと秋子から
手紙が届き、1月の連休を利用し実家に帰るところだった。
「それにしても何かあったんだろうか。しんぼう強い娘だから、
あまり大袈裟なことは言わないし…」
心配だったが、思い当たることがないので取りあえず、明日に備えて
眠ることにした。

「心配なのはよくわかるがそれは自業自得と言うものだ君は彼女の気
持ちを少しも分かってあげていないわざわざ東京に彼女がやって来て
くれたと言うのにその後なしのつぶてだ醜男がそのような目に合うの
は仕方のないことだが 彼女は愛らしい少女じゃあないかしかも彼女は
君のことを思って思いやりの あることをしてくれているそれなのに君
は私は断然フローラ・フィンチング(「リトル・ドリット」の登場人物)
の姿を借りて君に抗議する」
夢の中のディケンズ先生は、フローラのようにいつもより横幅が増して
牡丹の花のようになり機関銃のように捲し立てたが、しばらくして普通
のサイズに戻りやさしい顔で話した。
「やさしい言葉は、話すのも受け取るのも心地よいものだ。それを無理に
我慢するのはよくない。君が、「どうしたの。大丈夫かい」と彼女にやさ
しく言ってあげれば、多くのことは解決できると思うよ。その際、ジェネ
ラル夫人 (「リトル・ドリット」の登場人物)が言うように、パパ、ポテ
イトーズ、パウルトリー、プルーンズ、プリズムは口の格好が美しくなる
ので、憶えておくと役に立つよ」
「ディケンズ先生、でもぼくは…」
「小川君はっきり言おう、ここが正念場だ。また別の言葉で言えば、年貢の
納め時だ。幸運を祈るよ。ではまた」