プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生203」

相川からイギリスに行く前にもう一度会っておきたいたいとの手紙を受け取った小川は、大川に連絡を取り、
それから2週間ほどして相川がよく利用するレストランで3人で昼食会をすることになった。
「小川さんも大川さんもお忙しいと思いますのにわざわざ...」
「なにをおっしゃる、相川さん...。ぼくたちの間で遠慮というのは御法度ですよ」
「ははは、そう言われるとこれからの会話も滑らかに進んで行くと言うものです」
「と言いますと何か言い難いことを今から話されるのですか」
と小川が心配そうな顔をして言うと相川はにっこり笑いながらも、そうですと言った。
「えーっ、やっぱり私の小説がおもしろくなかったんですね。苦言は謹んで受けますので、遠慮なく言って下さい」
「いいえ、小説のことではありません。実は、私のイギリス人の友人の面倒を見てほしいという、勝手で急な
 お願いを聞いてほしいと思いまして...」
「というと、あのベン...」
「まあ無理しないで、ベンジャミンと言ってもらえれば、彼はにっこりと微笑むでしょう」
「小川さんと知り合いの方なんですか」
「大川さんに話してなかったかしら。実は新幹線で3回隣の席に掛けられて...。話が長くなるので、
 ディケンズ先生が取り持つ縁で知り合いになったとだけ言っておきましょう」
「そうですか。で、相川さん、その方の面倒を見てほしいと言われると...」
「そうベンジャミン・ブリテン、自分では、ベン・ブリッジと名乗っている私の友人は、日本のある大学で
 教えているのですが、もっと日本人の生活について知りたいと思うようになったのです」
「でも、あの方いやベンジャミンさんは確か名古屋にお住まいじゃなかったかしら」
「ええ、だから東京に来た時に、日本の文化の別の側面を見せてあげられないものかと思って...」
「ふうん、でもそれをどうされると言うのかな」
「まあ、意図はわかりませんが、日本の国を愛し、日本人が大好きで、日本でたくさんの友人を作りたいという
 気持ちは大切にしてやりたいと思うんです。引いては国際親善に繋がることですし...」
「そうですね。大川さん、引き受けてもいいんじゃないですか」
「まあ、英語も教えてもらえるかもしれないし...。でも、相川さんは1年間イギリスに行って、ここにおられないんですよね」
「そう、でも今日そのあたりのことをきちんとしてから、あちらに行こうと思っていますので、ご心配なく。
 いちおう、ベンジャミンを見てくださるということですから、今から電話を入れてこちらに向かわせます」
「まあ、なんと性急な」
「いえいえ、思い立ったが吉日です。で、彼と打ち合わせをしてほしいのです。多分、彼は私の穴を埋めるために月に一度
 くらい日曜日の午後こちらに来ることになるでしょう。もし可能ならお二人のご家族とも親しくしていただこうとも
 思っています。どうしたのですか、大川さん」
「私はいいのですが、アユミがどう言いますか」
「ベンジャミンは小川さんや大川さんと同じ程の体格なのでひ弱に見えるかもしれませんが、ずっとボート競技をしていた
 ので体力には自信を持っています」
「そうですか、安心しました。それでは、そろそろ、いつものお話をお願いします」
「承知しました。でも、その前にベンジャミンと連絡を取らせて下さい。都内にいるようにといってあるので、2時間
 以内にはここに来るでしょう」