プチ小説「青春の光26」

「橋本さん、船場さんのプチ朗読用台本のページを見ましたよ」
「そうかい、でも私はインターネットの環境がないので、彼のHPをまだ見ていないのだよ。どうだった」
「橋本さんがおっしゃる通り、船場さんは、「こんにちは、ディケンズ先生」船場弘章著(近代文藝社刊)を矢鱈
 宣伝すればいいという考えはやめたようですね。風が吹けば桶屋が儲かるというような作戦ではないですかね」
「というと」
「もうすでに、20の大学図書館や全国の20の公立図書館に船場さんが寄贈した図書がHPに掲載されていて、
 興味を持つ人が出てきているようです。そうして今度は、この朗読用台本で、ディケンズの小説の面白い場面を
 紹介してディケンズ・フェロウシップの会員の方やディケンズ・フェロウシップのHPを見に来られた方に船場さんの
 名前を覚えてもらおうとしているようです。ディケンズ・フェロウシップの新着情報にUPされていますから。
 そうだ、橋本さんがまだ見ていないと言われるかもしれないから、ここにプリントアウトしたものを持ってきたのですよ。
 持ち帰って読まれてはどうですか。明日また来ますので、ぜひ、感想を聞かせて下さい」
「プチ朗読用台本「ミコーバの爆発」「ピップの改心」「有頂天になったスクルージ」の3本だね。よし、わかった」

「どうでしたか、橋本さん」
「私はディケンズの小説に難解なところがあるので、いつも消化できずに悔しい思いをするのだが、船場君のを
 読むと明快でその場面が目に浮かぶような気がするよ。前口上でそれまでの経緯と場面を紹介して台本に入るので
 読みつづけてそこまで来る必要はないわけだ。3つの台本とも3〜4冊の翻訳を参考にしながら、わかりやすい
 ところを取り上げて、抜粋して仕上げたものと船場君は言っていたが、彼が言うとおり本当に読みやすい。
 内容については、「ミコーバの爆発」は『デイヴィッド・コパフィールド』の最も盛り上がる場面だが、
 登場人物が生き生きと描かれているので、会話を楽しんでいるうちにあっという間に読み終えてしまう。
 ミコーバの長い文語調の手紙の部分は思い切った省略をしている。「ピップの改心」は『大いなる遺産』の中で
 最も情景描写が優れている場面だが、最後のところでピップが脱獄囚プロヴィスに語るところは何度読んでも
 じーんとさせられる。「有頂天になったスクルージ」は、『クリスマス・キャロル』の最後の4分の1ほどを
 読みやすくしたものだが、改心したおかげで、未来の幽霊が描いた将来の姿から逃れられたと知った後の
 スクルージの取った行動は微笑ましく何度読んでも...」
「橋本さんが言われる通り、部分的なものですが、船場さんの工夫で、朗読会で読んでいただいても
 聴衆に喜んでいただけるようにできていると思いますね。それぞれがだいたい文庫本のページ数で言うと
 20ページほどのようですから、短編小説を読む感覚で読まれてもいいと思いますね」
「田中君もそう思うんだね。そこでだ...」
「な、なにか」
「これを紀伊国屋書店梅田店のテレビの前で読み上げようと思うんだが、どうだろうか。もちろんあの大きな提灯も
 持っていくつもりだ」
「でも大音量で鳴っているテレビの前で朗読するので、もっと大きな声を出さないと集まった方の耳に届かないと
 思います」
「そうか、ではどうすればいいかな」
「そうですね、冬の日本海で海に向かって大声を出すだけでは足りないでしょうから、夏には太平洋でサーフィンを
 しながら大声を出す練習するのはどうでしょうか」
「......」