プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生206」

相川が、どこかに食事に行こうと言ったが、小川と大川は今いるレストランを出てわざわざ
どこかへ行く必要があるのかと思った。
「相川さん、名古屋から来られたご友人を歓迎したい気持ちはわかりますが、私はこれから家族との
 夕食を考えていたので...」
「ぼくも、日曜日の晩ご飯はぼくが作ることになっているので、ベンジャミンさんとお会いしたら、
 お暇しようかと思っていたんですよ」
「そうだったなあー、おふたりとも日曜日の夜はそういう事情があったんでしたね。困ったな...」
「......」
「でも、ベンジャミンさんが家に来られるというのなら、大歓迎しますよ。もちろん相川さんもご一緒に」
「ぼくもそう言おうと思っていたところです。ははは」
「オウ、ソレハネガッテモナイコトです。カマセンかったら、行こマイ...」
「おふたりのご家族とも親睦が図れるわけだから、それが一番いいかもしれないですね」

小川が自分で玄関の扉の鍵を開け、帰宅したことを告げると秋子と桃香がやって来た。
「実は、お客さんを連れて来たんだ。相川さんとその友人のベンジャミンさん。それから
 大川さんももう少ししたら、ここに来ることになっている」
「じゃあ、久しぶりにお寿司でも取りましょう。ベンジャミンさん、日本食は大丈夫ですか。
 そうですか。注文は桃香にお願いするわ。それから今日は久しぶりにとろろ汁をしようと思って
 すり鉢でやまいもをおろしていたんですよ。さあ、玄関で話もなんですし、お入りください」
「オクサン、オカマイなく。デレー歓迎よりも細やかなキクバリのほうがすきなんよ」
「ベンジャミンもああ言っているし、そんなに長居はしませんから」
「いえいえ、相川さんは近くイギリスに行かれますし、二次会で家に来られることも予想していたん
 ですよ。桃香も、相川さんにヴァイオリンを聴いてもらおうと思って、さっきまで練習していたんです」
「そうですか。じゃあ、この音楽一家の紹介かたがた、ヴァイオリンとクラリネットの演奏を
 ベンジャミンさんに聴いてもらうことにしましょう。じゃあ、桃香ちゃんから」
「わかりました。相川さんに聴いていただくために練習してきたのですが、ベン、ベン...」
「そうですね。ワタシノ名前少しいいにくいかもしれません。なんだったら、ディケンズの
 小説のタイトル「互いの友」を使わしてもらって、「互いの友」と呼ばれてはドウデスカ」
「ふふ、ベンジャミンさんって面白い方。でも、これから親しくしていただくわけだから、
 「友」という言葉が会話にしばしば出てくるのはいいことかもしれないわね」
「じゃあ、「友」さんと呼ばしてもらおうかしら。それでは、「友」さんと相川さんのために
 しばらく演奏させていただきます。まずは、「ロンドンデリーエア」からどうぞ。あら」
「ちょうどいい時に大川さんご一家も来られたようだ。中に入ってもらって...」
「オウ、この方のオクサンがこちらのデカイ方ですか。ひいいーっ、アンタなにすんのん」
「小川さん、実はアユミはさっきお酒を飲んだところなんです。行きたいっ、て言ったから
 連れてきたんですが」
「うーん、もしかしてこういうこともあるかと思っていたが...。あっ、いいものがあるぞ」