プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生212」
秋子は満足そうに小首を傾げて軽く頬に力を入れて小川を見つめたので、小川はたやすく次の日曜日の話に
移行することができた。
「ところで、来週ベンジャミンさんが家に来ることになっているけれど、どうしたらいいと思う。大川さんも
どのようにして歓迎するか考えていると思うけど、ぼくたちもなにかできないかなと思うんだ」
「ふふふ、小川さんはじっとしていないというか、他人任せにしないというか。そこがいいところなんだけれど。でも
最初の日は大川さんとアユミさんにお任せしてもいいと思うわ。私も来週の午後はアンサンブルの練習でここにいない
と思うし。1年間は月に1回こちらに来られるのだから、その半分くらいをホストファミリーとして受け入れてあげれば
いいと思う。今のところ月1回ということだから、2ヶ月に1回くらいはアンサンブルのリーダーを誰かに任せて、
ベンジャミンさんと楽しい時間を過ごそうと思うの。そうそう私、思うんだけど、ひとつのところにじっとしているより、
どこかに出掛けて親睦を深めるのがいいんじゃないかしら。山登りは少しハードだから、小川さんと私が一緒に行った
ことがある、懐かしい場所なんかもいいかもしれない」
「でも、ふたりの思い出の場所は大切にしまっておきたい気もする」
「それじゃあ、小川さんはベンジャミンさんを家で持て成そうと思うの」
「そうじゃないさ、やはり外がいいと思う。でも、お茶の水、上野、渋谷なんかのふたりで行った場所はやはり大切に...」
「あっ、誰か来たようね」
小川が、いい時に来てくれたと言ったので、アユミとその夫が来たことが秋子にもわかった。
「あっ、秋子さんも今日はいるんだ。それじゃあ、これから1年どのようにベンジャミンさんを歓迎するか、首をひねる
ことにしますか」
「あなた、それを言うなら頭をひねると言うのよ。どうしても首をひねってほしいのなら、家に帰ってからしてあげるわ」
「そうだったね、じゃあ後でお願いしようか。ところで小川さん、これはぼくたちふたりの意見なんですが、どうでしょう
交代でホストファミリーをするというのは」
「ぼくたちも今その話をしていたところなんです。2ヶ月に一度なら、秋子さんも同席できると言っているし」
「なら、話は早い。来週は私たちの担当、次は小川さんと秋子さんの担当というかたちで1年間ベンジャミンさんを楽しませる
ことにしましょう。ところで来週はこの前に話題になっていましたが、高尾山に行きましょう。そうしてお弁当を食べながら、
お互い自己紹介をするといいでしょう。お天気になるといいな。そうそう晴れで高尾山に行くことになったら、
お弁当はアユミが作りますので」
「裕美ちゃんと音弥くんも来るんですね」
「もちろん、ふたりとも自然が大好きだから。さっき来週高尾山に行くと言ったら、喜んでいました」
「相川さんは、明日ロンドンに向かうと言っていました。今から来週ベンジャミンさんを高尾山にお連れすることを伝えて
おきましょう。出発は早い時間がいいと思いますので、そうだなー、午前9時に京王線高尾山口駅の改札口前で待ち合わせる
ことにしましょう。その旨、相川さんからベンジャミンさんに伝えていただくことにします。じゃあ、桃香もヴァイオリンの
レッスンがあるし来週はぼくだけの参加になりますが、よろしくお願いします」
「私たちこそ」