プチ小説「青春の光27」

「は、橋本さん、どうされたのですか。腹話術の人形のような声を出されて」
「やあ、田中君、実は、船場弘章君が書いたプチ朗読用台本の最新作「エイミーの献身」を
 練習しているところなんだ」
「そういえば、船場さんは、「こんにちは、ディケンズ先生」の宣伝をするだけでなく、ディケンズの
 小説の興味深いシーンをプチ朗読用台本で紹介して、ディケンズ・フェロウシップのHPの新着情報に
 掲載していただき、少しずつ「こんにちは、ディケンズ先生」や船場弘章を知ってもらうようにする
 と言われてましたね」
「そうなんだ、だから、私も微力ながらお手伝いさせていただこうと船場君に言ったら、ぜひ、
 プチ朗読用台本の新作「エイミーの献身」を読んでくれと言われたんだ」
「でも、ヒロインのエイミーを裏声でするのはよくないですよ。だって、エイミーの隠れファン
 というのはとても多いと言われますから」
「ほー、それはなぜかな」
「エイミーは本当に可愛らしいだけでなく、やさしく思いやりもある。勤勉で、人が困っている時には
 そっと手を差し伸べる...。『リトル・ドリット』はその大部分が債務者監獄の中での話ですが、
 そういう暗い背景のなかで、エイミーのやさしさ、おもいやり、献身なんかが際立って浮かび上がって
 くる気がします。とくにアーサー・クレナムが破産してマーシャルシー監獄に収監されてからの
 エイミーの献身、多分船場さんはここのところを抜粋されているのでしょうが、は誰もがうらやむくらい
 立派なものです」
「なるほど、そうだったのか。それを川上のぼるさんの腹話術の人形の声でするのはまずかったかな」
「エイミーはたしか22才のうら若き乙女なんですから...。そうですね。むしろ声はそのままで、若い女性に
 なった気分でされればよいと思います。飾らず自然体でされれば違和感は生じないと思います」
「実は、今までは男性ばかりで、女性といってもデイヴィッド・コパフィールドの大叔母やユライヤ・ヒープの
 お母さんしかやらなかった。今回は主人公の女性が話すところが山ほどあるから、うまくいくか心配だ」
「そうですね、身体を鍛えても仕方がないですね。そうだなー、「リトル・ドリット」の最後の部分を
 ぼくは、静かではありながら、喜びに満ちたものと解釈しています。そう言えば、今までのプチ朗読用台本は
 それぞれ、喜怒哀楽にあてはまると思いますね。「エイミーの献身」は喜、「ミコーバの爆発」は怒、
 「ピップの改心」は哀、「有頂天になったスクルージ」は楽を感じさせます。そういうことですから、
 そういう気持ちで朗読すればきっとうまくいきます。「エイミーの献身」は静かに心を込めて読めば
 聴衆はしんみりとした気持ちになって聴き入ってくれると思います」
「田中君が言うとおりだよ。それに引き替えわたしは...」
「どうされたのですか、橋本さん」
「実は、どうやってみても女性の声には程遠いので、誰か女性にエイミーのところを読んでもらおうかと...」
「で、あてはあるのですか...」
「まあ、なんとかなるだろう」