プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生216」
小川たちが京王線高尾山口駅の改札を出ようとすると、ベンジャミンが声を掛けた。
「オウ、コレはミナサンオソロイデスネ、今日はヨロシクオネガイシマス」
「こちらこそお願いします。そうだ、ベンジャミンさんは大川さん一家のことはあまり...」
「オガワさん、オマエ、ベンさんか友さんて呼んでくれたらエエのよ」
「じゃあ、ベンさん、こちらが大川さんご一家です。大川さんご夫婦と裕美ちゃんと音弥君。ぼくの家族は今日の
ハイキングには参加しませんが、次回にご一緒できると思います。今日は大川さん一家がベンさんを楽しませて
くれると思います」
「ソウカイナ、楽しみにシトルヨ。よろしゅうに。ほなボチボチイキマ...」
「ところでさっきから気になっていたのですが、そこにあるトランペットのケースのようなものに入っているのは
何ですか。楽器ですか」
「オオ、やっぱりオガワさんはスルドイですね。これはヴァイオリンです」
「それを引かれるのですか」
「チョビットだけ」
「ジャンルはなんですか、やっぱりクラシックですか」
「ソウやね。バッハかな」
「無伴奏ソナタ、パルティータですか」
「ソラ、シャコンヌもええけど、G線上のアリアはモットええよ。最近は小品ばかりを引いトル。あとで聞いてもらうから。
そうそう昔はブルーグラスのバンドにげすと出演しとった。フォギー・マウンテン・ブレイクダウンやブラックマウンテン
・ラグなんて、ブルーグラス・ファンやなくてもダレでも拍子に合わせて足を揺すぶってしまうのヨ。コレホント。それで
1回だけのつもりがのめりこんでシモウタン。ブルーグラスではヴァイオリンのことをフィドルっていうんやけどシットッタか」
「ブルーグラスですか。ぼくらが高校生の頃は京都でブルーグラスが花盛りで...」
「そうでしたね。ぼくもその頃関西でブルーグラスが盛んだったのは知っています」
「あなたたち、今日はブルーグラスの話をするんじゃないでしょ」
「そうでした、そうでした。今日の目的はハイキングで親睦を深めることなので。じゃあ、ここらでとりあえず
トランポリンでもやりますか。ぐえっ」
「あなた、それより私たちがのんびり話していると子供たちが退屈するじゃない。だからここは私があなたを...」
「アユミさん、今日はご主人を投げるのとお酒はやめておきましょう。そうだ、ベンさんに大川さんのご家族のことをもう少し
話しておきましょう。アユミさんはクラシックだけでなく、ジャズ、ポピュラーなんでも弾きこなせるピアニストなんです。
家内や娘が伴奏で世話になっているんです。ご主人も音大出身で作曲、編曲が得意ですが、どんな楽器でも少しは
演奏されます。でも普通の会社員です」
「おお、コチラさんはサーカス団員ではなくてさらりーまんだったのデスカ」
「それから子供さんお二人も英才教育を受けてかなり楽器ができると聞いています。今日は裕美ちゃんと音弥君の演奏が
聞けたらと...」
「ところでオガワさん、オマエはナニカヤットルン」
「ぼくはクラリネットを習って5年になりますが...。そうそうここにマイ楽器があります」
「オガワさん、オマエも楽器持って来てるンカ。ナラキカシテ」
「じゃあ、山頂でごはんを食べた後で適当な場所を探しましょう」
「それが、エエね」