プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生218」
今日のハイキング参加者が演奏ばかりしていて昼食を食べないので小川が心配していたところ、アユミが夫に話しかけた。
「あなた、みんなの箸が進まないから、トランポリンをしながらこれからどんなことをしてベンさんをもてなすか
説明して...。と言いたいところだけど、舌を噛む恐れがあってそれは御法度なので、先にトランポリンをしてから、
これからの予定を...」
「そうだね、ここは広いし、日頃の成果をみんなにたっぷり見てもらうことにしょう」
「あなた、調子に乗りすぎるのはやめてね」
「あたりまえじゃないか。それじゃー、いくよ」
「うっ、すすすすごい」
「きゃっきゃ、おとうさん、今度はムーンサルトだよ。やったーっ」
「オオカワ、アンタの持ちネタがようさんあるのシットルから、ソロソロ次に行かんと」
「じゃー、次はこれからの予定について話しましょう。先程小川さんが歓迎のあいさつをされた時に日本の文化の
すばらしさを紹介するというフレーズがありましたが、今まで紹介した山登りや西洋音楽の演奏というのも日本独自の
文化と言えると思います。でもそれらは日本の文化ではないとおっしゃる方が、おられるかもしれません。そこで少しだけ
補足説明をさせていただきたいと思います。明治、大正、昭和という時代は鎖国政策が解かれ、今まで遠い存在だった
西洋の文化が奔流となって日本に流れ込んだ時代だと思います。中には日本の文化に馴染まないだけでなく、悪影響と
なったものもあります。でも多くの西洋文化はぼくたちの生活にうるおいや活力を与えてくれ、心を豊かにしてくれ
ました。文化というものは何もその国固有のものに限る必要は全くありませんし、ある国の文化が別の国に持ち込まれかたち
を変えより優れたものになっという事例は枚挙にいとまがありません。とくに山登りというものは、日本の美しい自然の
おかげで、他国に類を見ないような発展を遂げた文化だと思います。またクラシック音楽も日本の民族音楽のすばらしさ
だけでなく、日本人の感性、手先の器用さによって大きな発展を遂げて来たと思います。そういうわけで、どこかに
出掛けて音楽を楽しむというのをぼくたちができるベンさんへのお持て成しと考えています。今日のように自然の中で
できればよいのですが、楽器や歌声を楽しむためにはスタジオを借り切ってするのがよいのかもしれません。でも2回に
一度はこうしてハイキングをしながら音楽を楽しみたいと考えていますので、ベンさん、よろしくおつき合い下さい」
「オオカワ、アリガトウ。で、オガワ、アンタはナニしてくれるん」
「ぼ、ぼくですか。うーん、考えてなかったけど...。思いつくまま、答えちゃえ。ぼくはベンさんに東京の穴場をお教えします」
「オオ、穴場、ですか、大穴ではありませんね。ソウデスネ。では、鍾乳洞や風穴のコトですか。チガイマスか、そうだ
モット英国人にわかりやすい表現で言ってクダサイ」
「そうだなー、少しの人しか知らない面白いところと言えばわかってもらえるかな」
「キット、オガワはいつも秋子さんを連れ出して、この人と一緒ならどこでも面白いと言ってゴマカシそうですが、
楽しみにしています」
「そうだった。ごめんなさい、秋子さんとの約束を忘れていました。長い話になるので、みなさんの演奏が終わってから
お話しすることにします。みなさんのご協力をお願いしたいのです」
「じゃあ、その時にコーヒーを入れますか」
「小川さん、小説のことも言っておいたらどうかしら」
「あっ、そ、そうだ、その方がいいのかな。でも、ベンさんにややこしいことを言ってもわからないだろうし」
「じゃあ、私が言ってあげるわ。ベンさん、小川さんは、将来、「日本のディケンズ」と言われるグレートライターに
なるのよ」
「アユミさん、グレートライターだなんて、100円ライターがいいところだよ。ははは」