プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生221」
小川が風呂から上がると、秋子と桃香は夕飯の席に着いていた。
「さあ、何から話そうか」
「そうねえ、やっぱりベンジャミンさん、ベンさんの演奏する楽器が気になるわ」
「きっと私と同じヴァイオリンと思うわ。だってベンさんのことを私は友さんと呼ぶことに決めているんだから」
「正解。それに音大の学生にバイトで教えていたと言っていたくらいだから、かなりの腕前みたいだよ」
「だったら、今度来られた時に友さんにレッスンをお願いしようかな」
「今度ベンさんにお願いしてみるよ。ところでこの前おかあさんが言っていた、アンサンブルのメンバーを
奮い立たせる妙案がないかということだけど...」
「そうそう、どうしたらいいと思う」
「この前、今日、説明すると言ってたから、大川さんやアユミさんそれからベンさんに相談するということは
なんとなくわかっていたと思うけど、お三方にお願いして、アンサンブルの練習に同席してもらうことに
快諾を得たんだ」
「そう、よかったわ。おとうさん、大川さん、アユミさん、ベンさんの4人が私の味方になってくれるんだったら、
これは怖いものがない状況と言えるんじゃないかしら」
「そう言ってくれると、矢でも鉄砲でも持ってこいと言いたくなるね」
「そう、じゃあ、ひとつ提案したいことがあるんだけど、いいかしら」
「なんなりと、言いたまえ、はっはっは」
「大川さんはムードメーカで全体の状況を見てポイントを抑えてくれるし、アユミさんはピアノ伴奏で細かい
指導をしてくれると思うの。そしてベンさんは弦楽セクション、私は木管と金管楽器のセクションの強化に
励むけど、おとうさんは特に教えてもらうセクションがないの...」
「じゃあ、ぼくは行かない方がいいのかな」
「いいえ、そうじゃないわ。最後まで聞いて。来月、ベンさんがこちらに来られた時に早速練習に来ていただけると
期待しているけど」
「ああ、そのことなら大丈夫だよ。次回はぼくたちがベンさんのお持て成しをする番だけど、大川さんご一家と
一緒におかあさんがアンサンブルの練習をしているところに行くことになったから、ベンジャミンさんには
正午頃、家に来てもらうようにと言ってある」
「それから練習会場に来てもらうんだけど、最初の挨拶をおとうさんにしてもらいたいのよ」
「挨拶って、なんの」
「それを一言で言うのは難しいけど、それこそやる気を引き起こすものであり、芸術家魂を奮い立たせるものであり、
創作力を喚起させるものであり、チャレンジ精神を鼓舞させるものであり、イマジネーションを無限に触発させる
ような...」
「うーん、要はメンバーの気持を高揚させて、一つの目標に集約させる。その過程で自主的に創造力をフルに働かせる
ようにするといった感じかな」
「そう、そういう挨拶を最初にしてもらえたら、メンバーの人たちに好感を持ってもらえてうまく溶け込んで行ける
と思うの。そうそう、ただ、固いだけの挨拶ではなくて、ディケンズ先生仕込みのユーモアをいっぱい盛り込んで
ほしいな」
「わかった、君のために一所懸命に挨拶文を考えるよ。さあ、食事をいただくぞ、お腹がぺこぺこなんだ」
「きょうは本当にごくろうさまでした」