プチ小説「深夜放送の効用2」
二郎は、もともとABCヤングリクエストやJOBUアフタヌーンサウンドのような
いろいろな種類の音楽を聞かせてくれる番組が好きだったので、聴取者が主役の
OBCのバチョンといこう、MBSのヤングタウンやKBSの日本列島ズバリリクエスト
などにはのめり込まなかった。それでも二郎が高校生になった頃に始まった、
ジェットストリームには心を奪われた。FM放送の良い音質で、ポール・モーリア、
レイモン・ルフェーブル、パーシー・フェイス、フランク・プールセル、カラベリ、
マントヴァーニなどの楽団の演奏が聞けるからだ。今日は、シャンソンの特集で、
「枯葉」「詩人の魂」「愛の讃歌」「パリの空の下」「ラ・メール」「パリ祭」
などの曲が聞けた。
「それにしても、シャンソンってなんて心にしみる音楽なんだろう。きっと詩
がいいからなんだ。大学に入ったら、フランス語を勉強して歌詞を吟味する
んだ。それにしても毎晩こんなに遅くまで起きていたら、昼間に起きていら
れなくなる。大学に入って勉強するどころか、高校を卒業できるかも心配だ
。
みんなはながら勉強ができるようだが、ぼくにはできない。とりあえず4月
になったら、大学受験のためにラジオ講座を聞くことにしよう。ぼくと深夜
放送は相性がばっちりなんだから、きっとうまくいくさ」
二郎の独り言を聞いて、母親が声を掛けた。
「二郎、また遅くまで起きているけど、大丈夫なの。今度の4月で高3になる
けれどどうするつもりなの。おかあさんは高校の成績がもうひとつなのに、
大学に進学できるとは思えないんだけど」
「おかあさん、安心して、原仙作や西尾孝の英語の参考書をしっかり勉強して、
山川出版の世界史の教科書を丸暗記して、4月から午後11時30分から
1時間あるラジオ講座を毎日聞けば、間違いなくどこかに合格するよ」
「そうかい、それなら必要な参考書やテキストを購入したらいいけど…」
「まあ、来年の3月中には決めるから、それまでは応援頼むよ」
「そうね、頑張ってね」