プチ小説「登山者5」
山川は青ガレの岩場で60才位の紳士と出会い、一緒に下山することになった。
「登山靴とリュックだけでなく、登山用の帽子、上下、手袋などをきちんと身
に付けられているあなたと一緒に下山していると、このような格好なのが少
し恥ずかしいのですが…」
「登山靴とリュックの他は、その人の好みや必要性で決めればいい。足が充分
動かせるのだったら、Gパンでもいいと思います。ただし、雨が降出したら
すぐに雨具を身に付けること。濡れると乾きが悪いし動きにくくなってしま
います。うるしでかぶれるかもしれないから長袖の服がよいのですが、そう
いうところに行かないのなら、Tシャツ1枚でもいいと思います。でも…」
「でも…」
「プランをきちんと立てておくことは、絶対必要です。登山では、無理なプラ
ンは絶対に禁物です。また自分の体力を考えてプランを立てなければならな
い。私は、今日久しぶりにこのコースに来ましたが、もうこれが最後になる
と思います。奈良から来るので、65才の私には手強くなったと今日思いま
した。奈良には、大峰山や高見山があって、大峰山では温泉を、高見山では
霧氷が楽しめるから、これからは欲張らないで、自分のよく知っている山に
行こうと思います…」
「……」
「私にとって登山は、若い頃からの大きな楽しみだったしこれからも楽しみで
あってほしい。それには登山が大きな負担になったり、自分の手の届かない
ものにならないようにしないと」
「もうすぐ京都駅に着きます。私は、近鉄線に乗り換えるからそこでお別れです。
今日は楽しかった。何だったら、あなたも一度大峰山に行くといいですよ」
「はい、その時は是非案内して下さい」