プチ小説「青春の光33」

「は、橋本さん、「こんにちは、ディケンズ先生」船場弘章著 近代文藝社刊 が発売されて1年が経過
 しましたが、売り上げはどうだったのですか」
「それは言わぬが花というところだろう。船場君は、3カ年計画でいろいろやっているところなので、最初の
 1年で成果が出なくとも、気長に応援してください。おふたりが陽気にやればやるほど、自分の小説に色濃く
 反映されるので、今まで以上に頑張って面白い話をしてくださいと言っていたよ」
「もちろん、ぼくは引き続き陽気にやっていくつもりです」
「そうだ、キープ・オン・ザ・サニー・サイドだよ、田中君」
「ところで、これから 船場さんはどんな活動をするつもりなんですか」
「65の大学図書館に「こんにちは、ディケンズ先生」を送付して、今のところ31の大学図書館のホーム
 ページに掲載していただいているが、まだ掲載していただいていない大学図書館にもう一度掲載のお願いを
 するようだ。ただディケンズ生誕200年なのに当初予定していたほど盛り上がっていないので、
 もう少し盛り上がってからお願いの手紙を送付しようと考えているようだ」
「でも、もうすでに処分されているかもしれないし...今年も2ヶ月余りだし...」
「いやいや、もちろん寄贈する図書も一緒に贈るのさ。それから必ずしも生誕200年の年に盛り上がるとは
 限らないよ。むしろ「クリスマス・キャロル」が書かれて●●●年という年の方が盛り上がる可能性が高い
 かもしれない。なぜなら、私の知り合いにはディケンズという小説家は知らないが、「クリスマス・キャロル」
 なら知っているという人のほうが多いんだ」
「で、それはいつになるのですか」
「1843年の作品だから、来年でちょうどできて170年になる」
「ちょっと中途半端な気がしますが、アニバーサリーイヤーと言える気もします」
「ところでもうひとつの公立図書館のホームページへの掲載だが、こちらは直接公立図書館に出向いて
 行くしかないようだ。担当者の方にお願いするというのが一番よいのだが、船場君はサラリーマンなので
 休日にお願いに行くしかない。でも有給を取って2ヶ月に1回くらいは平日に行くつもりと言っていた。
 出版社から100冊送ってもらって、2年かけて100の公立図書館に行くつもりですと言っていた」
「それでしたら、船場さんの好きな山登りもあと2年はお預けですね」
「山登りができるのもあと数年だろうから、船場君は、2年お預けはとても残念なのですが、長年の夢を
 叶えられるかもしれない最初で最後のチャンスなので、最優先で行きますよと言っていた」
「でもうわさによると、山登りをしていた頃は黒く精悍だった顔が白い水ぶくれの顔に戻り、引き締まっていた
 肉体が前のように重力に耐えられなくなって贅肉が臍の周りに集まり始めていると聞いています。それで
 いつも出社前にスキンヘッドのタクシー運転手に、君もたこにそっくりと言われているそうじゃないですか」
「私は、そのスキンヘッドのタクシー運転手に勧められて、うさぎ跳びやリヤカーごっこで筋力をつけている
 と聞いているが...。どちらなんだろう」
「そうだ、船場さんが現れるスポットを紹介して、読者の皆さんになまで見て判断してもらってはどうですか」
「そうか、それは面白いな。それじゃー、3つ紹介しておこう。ひとつは3ヶ月に一度、船場君は
 東京阿佐ヶ谷の名曲喫茶ヴィオロンでLPレコードコンサートを開催していて、3月、6月、9月、12月の
 第2日曜日の午後1時までにはヴィオロンに来ている。いつも5時過ぎまではいるそうだ。ふたつめは
 平日の朝、午前7時10分から55分までの45分間は阪急相川駅の駅前にある亜理亜恵という喫茶店で
 読書をしているというから、休みでなければ会えるだろう。みっつめは月に3回京都の四条烏丸近くにある
 JEUGIAミュージックサロン四条でクラリネットのレッスンを受けているので、午後7時のレッスンの
 10分くらい前に待ち合いで待っていれば...」
「何かいいことがあるんでしょうか」
「そりゃー、たこちゃんと言われているくらいだから、愉快な気持ちで一日が過ごせるだろう。ははは」
「......」