プチ小説「友人の下宿で6」
「みなさん、お忙しい中お集りいただきありがとうございます。今日は、ベー
トーヴェンのピアノ・ソナタから何曲かお聴きいただこうということです。
それでは高月さん、はりきってどうぞ」
「今日は、4曲お聴きいただこうと思います。最初は、第23番の「熱情」で
す。ベートーヴェンのピアノ・ソナタのいくつかには標題が付いていますが、
中でもこの「熱情」という標題は最も端的に内容を表したものになっている
のではないでしょうか。じりじり焼きつけるようなはじめから中盤に掛けて
、
そして最後の情熱的な盛り上がり、ベートーヴェンも何かの憧れを持って作
曲していたにちがいないと思います。では、ケンプでお聴き下さい」
「次は、第15番の「田園」をお聴きいただきます。田園交響曲は自然をモチ
ーフにした作品として有名ですが、こちらも田園風景の描写が写実的に描か
れておりのどかな気持ちにさせてくれる曲です。演奏は、グルダです」
「次は、第4番です。この曲には標題が付いていません。若い女性が描写され
ていると言われています。瑞々しい輝きに満ちた音楽で、明るく美しい旋律
が泉のように湧き出て来ます。演奏は、ベネデッティ=ミケランジェリです」
「最後はやはり、作品111、第32番のピアノ・ソナタです。ベートーヴェ
ンは若い時からピアノ・ソナタを作曲しており、この作品はその最終的な結
論のように思われます。第31番のソナタが長調の明るい曲相であるのに対
し、この曲は、ベートーヴェン特有の苦悩を突き抜けて歓喜に至る音楽が展
開されています。演奏は、グルダです」
「ベートーヴェンとこの前お聴きいただいた、ショパンはピアノ音楽の先駆者
と言えると思います。ピアノの機能を最大に引き出した、しかも美しい旋律
の音楽を提供してくれたことは後世の音楽家に大きな贈り物をしてくれたと
も言えます」
「それにしても高月さん、よく続きますね」
「いや、残念ながらもうネタ切れだ。少し充電期間が欲しい。紹介するレコー
ドが集まったら、再開するよ」