プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生245」

小川はアユミに荒技を掛けられ意識を失ったが、そのおかげで夢の中でディケンズ先生に会うことができた。
小川が周りを見ると霧が一面に立ちこめ、すぐ近くで旅客機に乗るようにとのアナウンスが流れていた。小川がその方向へと
行こうとするとディケンズ先生が制止した。
「小川君、三途の川をジェット機で渡るのはまだ早いよ。君は100まで生きて、私の業績をずっと讃えてもらわないと
 いけないんだから」
「あ、ディケンズ先生、でもぼくはどうしたんだろう。...。そうだアユミさんが怒り心頭に発して、ぼくを持ち上げたんだっけ」
「小川君、今はもたもたしている余裕はないから、要点だけを話そう。何としても最初の意見を貫き通すんだよ」
「もちろんそのつもりですよ。ここで引き下がったら、ベンジャミンさん、相川さん、大川さん夫婦は喜ぶでしょうが、私の
 家族3人は喜ばないでしょう。家族の構成員がずっと遠くにいるのは好ましいこととは言えません。一番大切にしなけりゃ
 いけないのはやはり家族ですし、家族を守るために父親は矢面に立ちますよ」
「そうだ、それがわかっているのなら、すぐにみんなのところに帰るがいい」

小川が目を覚ますとレストランの角にあるベンチに寝かされていた。小川が頭を上げてみんなの注意を引くとアユミが
指をぽきぽき言わせて、小川の頭の前に立った。
「小川さん、薬が効きすぎたかもしれないけれど、私が言いたいことをわかってくれたわね。さあ、深美ちゃんをどうするつもり」
小川は起き直るとアユミをじっと見て話した。
「もちろん、前言を取消す気はありません。もし、私が言うことが気に入らないのなら、ここから出て行って下さい」
「あなた、それで深美ちゃんが喜ぶと思っているの。このまま不断の努力さえすれば、世界的なピアニストになって両親を幸せに...」
「オウ オマエ気がツイタのデスね。ホンマにヨカッタ。でもオナジことを言うのなら、今度はワタシが頭突きカマシマス」
「まあまあ、ベンジャミンさん、落ちついて。だって小川さんは良識のある人だから、さっきはぼくが間違っていましたと
 言うに決まっていますよ。ねえ、小川さん」
「ベンジャミンさんも相川さんもそう仰るのなら、アユミさんと考えが同じなら、ここから出て行って下さい」
「まあまあ、みなさん落ちついて下さい。そうだ今からぼくがトランポリンをしますから、その間に自分が言いたいことを
 整理しておいて下さい。3つ数えたら、ぼくは始めますから、みなさんご唱和ください。いちー、にー、さん、ぐえー」
「あなた、こんな時にトランポリンはないでしょう。小川さん、あなた、この事態をどう収拾するつもりなの。あら、秋子、
 あなたどうしたの」
「私、今まで、人にはやさしく接することしか考えなかったから、アユミさんにこんなことを言うのは本当に辛いことなんだけれど
 人の家の問題に口を挟まないでと言いたいの」
「秋子...」
「秋子さん...」
「アキーコ...」
「そう、私達家族の総意に反対する人はここから出て行って下さい」
「......」
「みんな、どうしたの。今日は深美ちゃんを励ます会じゃなかった。あなた、どうだった」
「そ、そうだったね。ベンさんもとっておきの演奏を聞かせると言って、お酒を断っていたじゃないですか。ここはみんなが
 落ちつく音楽を奏でてほしいな。そのあと相川さん、あなたもお願いしますよ」
「そうでした。そうでした。今日は楽しい会にしなくちゃ。ねえ、ベンジャミン」
「アイカワの言う通りデス。ワタシタチがシタことは内政干渉でホメラレタことではありません。あとはタノシクヤリマショウ」