プチ小説「青春の光37」
「は、橋本さん、どうされたのですか」
「やあ、田中君、実は今日はひとつ分析をしてみようと思うんだが、つき合ってくれるかな」
「いいですよ。でも、分析って、何を分析するんですか」
「われわれの使命は、船場弘章君の「こんにちは、ディケンズ先生」近代文藝社刊の売り上げを向上させる
ことなのだから、もちろん...」
「なるほど、そうでしたね。それなら喜んでお手伝いさせていただきます」
「じゃあ、尋ねるが、田中君は今まで船場君はどんな実績を残したと思う」
「えーと、本の売り上げは全然伸びないようですが、図書館の受け入れはかなりあるなと思います。
今のところ、大学図書館が45、公立図書館が97と聞いています」
「そのとおりだ。ある意味、生命線と言える。で、まずは大学図書館の受入を増やすのにどうするかだが、船場君は3月の初めに出版社に
依頼して、50の大学に自分で書いた手紙をつけて代行発送してもらった。今のところ10の大学が受け入れてくださっているそうだ」
「10ですか、それに全体でも公立図書館の半分ですね」
「そう、そこで、どうすればいいかなんだが」
「でも、方法としては、大学図書館に手紙を添付して出版社に代行発送してもらうという方法しかないし...。
そうだ、例えば何をしてもいいというのなら、橋本さんが無茶をするというのがありますが、どうでしょうか」
「もちろんいくつか考えたんだ。全身に金粉を塗って登校する。全身にメリケン粉を塗って登校する。全身に...」
「楽しそうですが、宣伝効果は少ないと思います」
「じゃあ、こんなのはどうかな。クレーン車の天辺からから縄を垂らしてもらって、ターザンのように行ったり来たりしながら...」
「それも心に残らないと思います。ぼくは歌がいいと思うんですよ」
「PRソングを作るというわけだ。でも誰が作るのかな」
「もちろん橋本さんとぼくの分業で。作詞は橋本さん、作曲は私ということで。次回お会いする時までに考えておいてください」
「......」
「それから、公立図書館の方ですが、船場さんは受け入れていただいてない道県の図書館に何とか入れていただけないかと考えておられる
ようです。今までは直接本を持参して担当の方に受入をお願いしていたのですが、これだと船場さんの家の近くの大阪府内や京都府内、
それから3ヶ月に一度LPレコードコンサートのために訪れる東京都内とその近辺の埼玉県内と千葉県内に集中することになり、
それ以外は愛知県内の16くらいですが、なかなか効率よくたくさんの図書館を訪れるというのは難しいようです。船場さんは
少なくとも一つの県に1館くらいは自分の本を受け入れてもらえるようにしたいと考えておられるようです」
「まあ、やってみるとしたら、代行発送だろう」
「船場さんは以前、代行発送してもらわれたことがあるんですよ。10余りの公立図書館に。でも1つも受け入れられなかった」
「確かその時は船場君の手紙を添付しなかったはずだし、今なら全国の100近くの公立図書館に置いてもらっていると手紙に書けば
検討してもらえると思うんだが...」
「橋本さんの言われる通りですね。駄目で元々、人事を尽くして天命を待てばいいんですから」
「そうだ、われわれも船場君のためにやれるだけのことをしてやろうじゃないか」
「じゃあ、ひとつ提案させてください。ぼくが作曲するより、替え歌の方が普及すると思うんです。メンデルスゾーンの「歌の翼に」が
ぼくのお薦めです」
「よーし、やってやろうじゃないか」