プチ小説「青春の光40」
「やあ、田中君、おめでとう」
「えっ、まだ、6月ですよ」
「ちがう、ちがう、船場君の小説のことだよ」
「そうですか?確かに111の公立図書館、59の大学図書館に受け入れていただいていますが、
特にハイペースで増えているというわけでもありませんし、第一、売り上げは全然駄目...」
「田中君、われわれは明るいだけが取り柄だ。陰に籠ってどうする。無理矢理に明るい話題を見出して、
腹の底から声を出して、笑い転げるんだ。こんなふうに。ははっはははっははははははっはははは」
「どうも心の底から笑えないようですね。それでもいくつか船場さんのことで話題があるので、
報告しておきましょうか。まずは、プチ朗読用台本の朗読の件ですが...」
「A先生が多忙になられて、続けることが難しくなったということは、この前、船場君から聞いたよ。
でも、A先生に、「ミコーバの爆発」と「カートンの愛情」を読んでいただいただけで十分ですと
言っていた。欲を言えば、「ピップの改心」「有頂天になったスクルージ」「オリヴァーの危機」
「ディヴィッドの決心」を読んでいただきたかったそうだが、長文のものもあり、A先生がずっと立ったままで
1時間近くも読まれるのは体力の限界をはるかに越えている。9作目の「メアリーと愛息」10作目の
「ピクウィック氏の気概」があまりに長いものとなったため、敬遠されるようになったのかもしれないとも
言っていた。どうも船場君は人のことを考えずに突っ走るところがある。今回はそれが裏目に出たんだろう」
「そうですね、それに主人公が女性の「エイミーの愛情」や「エスタの幸福」は年配の男性が演じるのは
とても難しいと思います。船場さんはA先生が「カートンの愛情」と読まれた時にそれをすごく感じたと
言われてました」
「そう、確かヒロインルーシーの娘、こちらもルーシーと言うのだが、そのリトル・ルーシーが父親の不幸を
嘆き、カートンに助けを求めるところは、A先生が熱演されたから会場は感動して静まり返っていたが、
平凡な朗読家だったら、うまくいかなかっただろうと言っていた。そんなこともあり、船場君は
これからは、30分くらいで終わるような台本を作ると言っていた。でも、この前、ディケンズ・フェロウシップの
春季大会でN大のM先生にそのことを言ったら、M先生は、まずは長編小説14作の全部のプチ朗読用台本を
作ってくださいと言われたそうだ」
「そうですか、でも残っている6つの小説、「ドンビー父子」「ニコラス・ニクルビー」「ハード・タイムズ」
「マーティン・チャズルウィット」「骨董屋」「我らが共通の友(互いの友)」は、どちらかというと暗い小説ばかりですね」
「まっ、船場君のことだから、まじめに取り組むさ。そうそう、春季大会では今までの総会と違って多くの先生から
親しく声を掛けてもらえたと喜んでいたよ。特に、日本支部長のK大のS先生から、秋季大会での発表、たのむよと
言われたのは、嬉しかったと言っていた」
「そうですか、それじゃー、船場さんは、クラリネットを演奏するとか、橋本さんが作った替え歌を歌うなんかして、
みんなに喜んでいただかないといけませんね」
「まさか。発表方法は約30分、立って原稿を読み上げると言う、いたってシンプルなものだ。パワーポイントも
使わない。もし講演原稿以外で個性を出せるとしたら、配布資料くらいだろう。船場君は、小澤一雄氏に了解を得たので、
表紙絵の絵はがきを出版社に作成してもらうといっていたが、他にもいろいろ配布する予定だと言っていた」
「会場が九州にある西南学院大学だから、講演に来ていただくのも大変ですね」
「そうだね。でも、船場君は一生で一度の晴れ舞台なので、多くの方に来ていただければ有難いと言っていたよ。
そうだ、最後に無理矢理明るい話題を取り上げることにしよう。このプチ小説「青春の光」はこれで40話ができた
わけだが、あと35話できれば、「こんにちは、ディケンズ先生」船場弘章著 近代文藝社刊と同様に75話分が出版される
かもしれないね。ははははは、ひひひひひ、ふふふふふ、へへへへへ、ほほほほほ ぷぷぷぷぷ ぽぽぽぽぽ」
「そうですね。船場さんと一緒に明るく笑って三人で苦境を乗り越えましょう」